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視線が交差した。
晴れていく砂埃。棚引く赤い鉢巻。言葉をぐっと堪えて、今にも物言わんとする目を寄越す武田軍・真田幸村が其処にはいた。
またしても笑みが鼻をつく。



「どうした、アンタ一人か?」



本当にやってきた。まさか本当に、このギリギリで姿を現すとは。
疼く体を抑えていた途端にこれだ。何よりも楽しくて笑いが込み上げてくる。

政宗は背中を丸めて「クックッ」と喉を鳴らした。



「アンタで出迎えとは、武田も気前がいいじゃねえか」



政宗を横目で見る小十郎。後ろの兵達は「何だ何だ」と小声を漏らし、事の行方は政宗の行動にかかっていると言っても過言ではなかった。



「本当はオレから挨拶入れようかと思ったが、急いでるんでな」



体を起こして眼下を見ても、奴は相変わらず其処にいる。
二槍を携えて立ちはだかっていた。

政宗の目がじっと見つめて止まった。その目は僅かに揺れて、いつの間にか六爪に手を添えている。



「partyは、―――お預けだ」



しかし目を閉じてそう言った政宗は、刀を握る力を抜いた。そっと離して腕を組んだのを小十郎は黙って見ている。すると幸村も目を閉じて、ようやく口を開いた。



「……政宗殿」



拳は強く握られている。まるで怒られてしょげた童のように、高さのある背を丸くしていた。



「某とて同じ。そなたを目の前にしこの槍を振るう事叶わず、もどかしい気持ちではある。なれど此度はお館様の命、某はお館様の御意思に従「旦那長い!」



そう言って現れたのは佐助であった。幸村の横に瞬時にしゃがみ、「うお!?」とよくある従者の登場にも度々驚く彼を他所に、立ち上がり見せた表情は真剣に伊達の二人に向いている。



「止めて申し訳ない、実は竜の旦那の耳に入れておきたい事が」

「政宗様に、だと?俺達を引き止めておいて、どういう要件だ」



代わって応える小十郎は剣幕を露わにするも、引き継いで返すのは真面目な顔つきになった幸村だった。



「先だって信濃の北、越後近くにて織田の将を佐助が目撃致した」



政宗の目が一瞬揺らぐ。「ちょっと!旦那」と、焦る素振りを見せて、ため息を吐いた佐助は再び真剣に伊達の二人を見つめて言った。



「鉄紺の髪に枯茶色の瞳の女だ。一人森深くの湖畔で水浴びをしていた。それからどこに向かったのかは分からないが、他に仲間の気配もなくてね」



「水浴び…」と目を泳がせる幸村に、「いちいち想像しなくていいから旦那」と目も向けず返す佐助。若干怖いと思ったのは伊達の兵達の心境である。
小十郎が再び政宗を見遣った。



「それをオレ達に話し、お前らに何の得がある?」



即座に返す政宗の声は淡々としていた。情報はこの戦乱の世において、兵力にも勝るものだ。それを話すということは、場合によって自身の利を損なうことになる。

突き刺さるような無表情が二人に向いた時だ。



「魔王織田信長に勝つ為の地固めさ、」



答えたのは幸村でも佐助でもなく茂みの中から現れる者。伊達と武田の間に割って入って足を止める大きな図体と、負けず劣らずの大きな得物を担いでいる派手な衣装の男。
この声、聞いた覚えがある。政宗は眉を寄せた。



「テメェは…」

「久々だねぇ、」



彼は人懐っこい笑みを浮かべて言う。




「独眼竜」

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