115

「青琉」



声が掛かったのは、先の騒動が落ち着き部屋を離れる時だった。
足を止め振り返るとそこには片倉がいる。



「俺はお前をまだ認めちゃいねえ」

「…」



身構えるように青琉は眉を寄せた。
「だが」と不意な言葉に目が瞬く。



「お前なりに考えてるってことぐらいは―――認めてやる」

「…!」



途端見開いた目は瞬きを忘れ、呆然と固まる。



『―――確かにねねが報せたのやもしれぬ』



思い出していた。間者の話の折、そう口を切った青琉(こいつ)を。
それが【これまでと同じもの】なら口を挟まなかっただろうに。



『しかしそれが否応なしにさせられているのだとしたら、…私は認めることはできない』



強く床を掴み、見上げた。



『―――独眼竜、竜の右目』



あの時のこいつは。



『力を、貸してくれ―――』




「…―――−、」



それはほんの一瞬の回顧か、小十郎の目にはそのまま直立不動の青琉が映り、漂っていた。



『私も部下の標(しるべ)で在りたいと、そう思えたんだ』



「……」



俺も

(…まだまだ甘いぜ)

瞼を閉じる。



「あれだけ言葉にできるのなら、早く政宗様にお伝えしろ」



―――青琉の手が、ぴくりと動く。



「あの方はそれを待ってるんだからよ」



すれ違う小十郎。
青琉は視線を落とし、髪に隠れたその目を細めて。



「…あぁ」



微かな笑みを頬に溜めた。

歩き出して離れていく互いの背。
それを陰から見守る亀助と重蔵が、ほっと胸を撫で下ろした。



◇―◇―◇―◇



辰の刻。空には霞雲が広がり、日光が地に届く。
雪原には多くの馬が群れ、野太い声が和気藹々としていた。



「Are you ready guys!?」

「イエー!」


「Do the goes on!」

「イエー!!」




そんな寒空に、慣れた勢いと拳を上げて応える兵士の歓声が響く。駆け出す寸前の彼らを後ろに控えて、



『…―――すぐには行けぬのか?』



ふと軍議前のことが蘇っていた。

呆れた小十郎が地図をしまいながら口を尖らす。



『お前、冬の山を何だと思ってやがる』

『ぅっ…』

『やる気なのはいいコトじゃねえか小十郎』



楽しげに青琉の言葉を引き継いだ政宗が少し考える素振りで続けた。



『…なーに、少しsliderなだけだ。雪まみれにならねぇように気をつけな』



此処を超える極寒。未知の場所に、



『理由は知らねぇが、何らかで明智たちの側にいんだろうよ』



―――きっと。



『…人の足で踏み入るにはこちらも些か準備がいる。あそこにわざわざ来いなんて言うには、』



―――奴らも相当の準備をしているだろう―――




「…―――、」



牡丹。ねね。



(…―――青香)

「OK!Be enthusiastic!」




後ろ目に軍全体を見遣っていた政宗が、正面の山々に向き直る。



「目指すは月山―――奴らのとの決着、つけに行くぜ!!」

[ 115/122 ]

[*prev] [next#]
[]



×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -