「―――っし、今夜は飲むぜぇ!野郎共!!」





それは彼のこの一言から始まった。
私の夫、長曾我部元親は四国の長。
長い船出を終え無事国主の務めを果たした彼は、戻ってくるや部下を引き連れ私の前に現れた。




「いってらっしゃい」




ニコニコと

私はこれ以上ないくらい笑って送り出す。







―――私はお酒にめっきり弱い、と元親が船出している間に発覚した。

何時酒を飲む機会があるか、分からないのだ。
知っておくに越した事はないだろう、元親がいない間に…そう思ったのだ。
注ぐのは問題ない。
臭いも大丈夫だから、飲むのも大丈夫…と思って一度こっそり晩酌した。
それが案の定…だった。
盃1杯でフラフラになった。
頭が回らなくて、眠くなって…
その夜は屋敷に控える家臣達に気付かれないよう眠りについた―――。







元親に知られてはいけない…







「あ?おめーは行かねぇのかよ」





だが彼は動かない。





「わ、私?私はね、これから明日の洗濯の準備しなきゃ。
ほら、このひと月で凄い洗い物でしょう?今のうちに仕分けしなきゃ!」

「ンなの、城の奴らに任せりゃいいじゃねぇか。
明日来るんだろ」

「少しでも手間を減らしておきたいのよ。
任せっきりは歯痒くてしょうがないわ」

「…」

「ね?」




黙る元親。
目が怖い。
私は、あらん限りの笑顔を浮かべ続けた。
冷や汗が止まらない。




―――ドンっ





「じゃ、終わるまで待っててやるよ」





何ですってえええええええええーーー!?


―――玄関に腰を下ろした元親を見下ろしながら心の中で叫んだ。
何とか笑顔を保っている。





(てか「待っててやるよ」って何?
借りにもアンタ達の着てたものよ
手 伝 い な さ い よ)





ぴくぴく、と口元が引き攣る。





(いや、ダメ…
ここで元親達を止めたらそれこそ水の泡だわ)






頭を掻く彼を引き攣った笑顔で見下ろしながら





(…笑顔で送り出さなきゃ)




考える。





「―――元親ー…」

「何だ?」





見上げる彼。





「実は夜に先生がいらっしゃるのよ。
読み書きを教えて下さる先生。
…国主の妻が文字も書けないなんてって、城の方達が見付けてくれたじゃない」




事実、書は大方読めるが簡単なものに限る。
他国の大名家から送られてきた手紙や、城の書物に関してはまだまだ知識が足りな過ぎる。





「しっかり集中して早く身に付けたいから、疎かにしたくないの!」





だから元親は、ね?
心の底で思いながら、ここまで言えば引き下がるだろうと確信していた。





「今回は私抜きで楽しんできて?」





いける、と





「…」





「…」






ふー、と息を吐いた彼に
急に腕を引っ張られ、小さな悲鳴と共に私は座り込んだ。




「―――…!」

「……」





顔を上げれば元親と目が合って。




ふっと口角を上げて笑った彼に




反則だと思った。





「よおーく、分かった」





立ち上がって




「お前…嘘付いてんだろ」




聞こえた声に
ばっくん、と心臓が跳ねる。





「お前嘘付くの下手だからな」




此処見りゃ分かる
―――そう言い隻眼を指差し、少し下をつんつんと触ってみせた。




「ン?反論がねぇな。
正解か?」

「わ、私は―――!」

「おぉーっと」




ぐんっ、と引っ張られて私の言葉は言えない。
精悍な腕にしっかりと閉じ込められてしまって。





「時間切れだ」




「―――っ!…」




まんまと踊らされてしまう





「何だろうなぁ…お前が行きたくねぇ理由―――
…なぁ、野郎共」





元親の荒業に歓声を上げていた彼らは、一変し考える素振りを見せる。




「何でしょうね…」

「あれ…そう言えば」






(嫌な予感しかしない…)






「姐さんって、酒飲めましたっけ?」






ぴく、

私の動いた手を彼は見逃さなかった





「…決まりだな」

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