「…寿丸様」

「…」

「松寿丸様!!」

「!!」



驚いて飛び起きる。
すぐ横に女中がいて、微笑んだ。



「朝でございますよ」



―――



タタタタ…
―――急いで着替え縁側を走っていた。
少し長くて慣れない袴をバサバサと、はためかせながら。



「松寿丸様、朝餉は―――」

「すまぬ!後で食す!」



女中や家の者とすれ違うがそんな暇ではない。



「はっ…はっ」



足を止める。
そこは広い石庭。



「おぉ、来たか」



そこに一人いた。
ブンッ、と木刀をひと振り下ろしたその人が気付いて。
松寿丸が庭に降りていく。



「すみませぬ、父上。
おくれて…」




―――



「ようし、今日はこれまでとしよう!」



縁側に腰を下ろす。
持っていた木刀を女中に渡しながら弘元は言った。
松寿丸が隣に座る。



「今日は私にとってもいい稽古となった。
感謝しておるぞ、松寿丸」

「…」



黙ったまま下を向く松寿丸。
父はああ言ってくれたが、今までになく稽古はうまくいかなかったのだ。
いつも自分でも満足する位うまく出来るのに…そう思い、言葉が出なかった。






ポン、





「そう、落ち込むな」





頭を撫でる弘元。





「お前も私も人だ。
うまくいかない事もある。
だがそれを糧に成長してゆけばよい」

「でもわれは…」

「?」

「父上のように」







強くなって




家を守れるようになりたい
―――言えば弘元はきょとんとして。
でもすぐ優しげに目を細め言った。





「そなたは十分」





強い





「焦らず、ゆっくりで良いのだ」





「まこと、に?」





「あぁ、誠だ」



戸惑うように見上げた松寿丸の小さな肩を引き寄せて。






「そしていつか、私の跡を継げる位
大きくなれ」





松寿丸
―――父の大きな背中に包まれて一瞬戸惑う。
でも、コクリ、小さく頷いて。
着物の袖を強く握った。

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