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―――コホッ、ケホ…
一人執務部屋で筆を走らせていた時だった。
(風邪か、いや)
『―――…げほ、ごほっ』
(移ったか…?)
いや
(有り得ぬ―――)
分かっていた。
六条特有の症状なのだ。移る筈など、ない。
―――コホッ、コホッ…
(ただの風邪よ…)
「―――…元就?」
「!!」
目を剥いた。
外を向くと襖越しに由叉の輪郭が浮かんでいて。
「大丈夫?風邪…」
「よい、大事無い」
来るなと言うつもりが違う言葉で
「本当?」
まだ捨てきれない自分を実感して
「入るね」
…スーッ、
―――苦しくなる。
「貴様勝手に…」
―――コホッ、コホッ…
(何故今咳が…っギュッ…
「!!」
背中が暖かくなって。
後ろから抱き締められていた。
「もう…夜も遅いよ?」
ギュッ…
「無理しないで」
風邪ならおれが、もらっていくから
「ね?」
ゆっくり離れる由叉。
「入ってごめん。
―――おやすみ、元就」
外に消えていった影を目で追う。
そらして、目を閉じた。
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