「―――…」





暗闇、


闇、




―――森の中は先に増して静かだった。
寧ろ不気味な程。

心配そうに付いてくる隆家に目もくれず歩き続ける。
まだ続く、黒い血。辺りは雑兵がちらちらと転がっていた。血が指し示す先、何処までも。



パキ、

―――枝を踏んで。
暫くすると淡く月明かりが見えてくる。その真下に出て、足を止めた。
後ろ姿を追って追い付いた隆家が声をかける。




「も…元就様?」




普段からどの重臣にもついで、元就の職務をこなしている隆家でさえ
今の元就の行動は、その中でも最近の行動は予想出来なかった。
端正な顔に僅か、困惑の表情で前を見る。元就の瞳がじっと捉えて離さない先。





ァ…

―――風が揺らす、焦茶の髪。
細く淡い緑を、首には黄色い布を巻いた後ろ姿。



月夜に映える彼女は




赤い海に茫然と立ち尽くし空を見上げていた。




「………っ、」




ごく、と隆家が息を呑む。
彼女の傍らに転がった一際大きな男、それは報告にあった敵の将だ。




(由叉殿が…!?)





それはあまりに衝撃的で。
だが、だからこそ冷静に隆家は頭を働かせていた。

毛利軍の中でも分析力に優れている。
元就と同じぐらいの年で主人にいつも振り回され苦労性だが、由叉が毛利に来るまでは元就に一番使われていたのが隆家であった。それもこうしていざという時に機転が効くから。

それでも、細身で身長が低い彼女が体躯が全く逆の、見るからに荒々しい男を討った事実は




(真に…!?)




信じられなかった。



―――血生臭い匂い。
転がる死体全てが血に塗れ、そして彼女の刀からも滴る。
聞かずと、分かった。
その時、ぴくりと揺れた後ろ姿。





「元……就?」




振り向いた由叉。
変わらない大きな藍色の瞳、白い肌。
でも頬に飛び散った赤。

サワサワと風が吹いて木陰が揺れた。
血に塗れ月明かりに映える由叉。
不気味な程美しくて。

―――彼女が力なく微笑む。




「ごめ…ん…、」




役に立ちたくて




「先に…進んじゃってた…」




それに




「手間…掛かっちゃった…」




でも




「でもおれ……頑張ったよ…?」




ふらふら近づいてくる。




「…ねぇ…元な、」




言葉途中で傾いた体。
元就の下へ辿り着く事叶わず地面に崩れた。



「………」

「………」




目を剥いて小さな背を見下ろす。
背も返り血を吸い、服も傷だらけで。

元就は表情一つ変えず倒れた由叉の顔を見つめていた。

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