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――――ザンッ!!
「左様な力で我を討とうなど度が過ぎるわ」
この日、2日に渡った戦が幕を閉じた。
長年いがみ合っていた大内義長が毛利に攻めてきたのだ。本陣の元就は何時も通り兵を出陣させた。多勢に無勢、圧倒的数で毛利は勝利を収める。
自軍の状況に痺れを切らした敵の総大将、大内は策を取り違えた。自ら兵を引き毛利本陣へ乗り込んだのだ。が、格の違い。対峙した元就は表情一つ変える事無く大内を切り払った。
「…ふん、愚か者が」
呆気なく散った命。
冷たく見下ろした。
「も…元就様!!」
聞こえた家臣の声。
振り向かず視線だけ後ろへ遣る。
「敵兵が退き始めたようです。
我が軍の被害はさほどありませぬ」
「大内本家へ攻めた駒はまだ戻らぬか」
「は、斥候が申すにあちらの陣にはこちらをはるかに上回る兵と、…なんともいかめしい体躯で、赤子のように兵を捻り潰す世にも恐ろしい男が陣を任されていると…。
我らの兵の大半がその男にやられ「左様な事はどうでもよいわ」
鋭い眼光で一瞥して。
「早々に掃滅致せ」
安芸の安寧を脅かせし者は。
「…あの女は何をしておる」
ふと、思い出した。
かの力があれば順調に動くはず。
―――家臣は慌てて背を伸ばし答えた。
「は、大内に御出陣なられた由叉殿は目覚ましいご活躍を収めておりまする。敵兵の殆どのみならず敵将の殆どをも討ったとの由、
――ですが…」
「どうした」
「奥に進むにつれ由叉殿は一人先を行き、こちらの兵が追いつけず姿を見失ったと―――ぐぁっ!!!」
飛び散った血。
次は緑の装束が地面に積もる。
血に濡れて光る輪刀。
振り払い血を落とす。
「貴様は馬鹿か…?」
使えぬ駒よ
―――切り捨てた自軍の兵に振り向く事もせず呟いて。
駆け付けた兵が驚き顕にやってくる。
「周防(すおう)に出陣する。
早々に用意致せ」
「は、ははぁ!!!」
周りの兵が肩を震わせて散っていく。
その様子に何ら感情が湧く事はない。
「所詮は女…
やはり使えぬ駒であったか」
軍の和を乱し一人行動はするなと
あれ程言った。でも、
―――元就は静かに踵を返した。
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