―――此処は安芸。
毛利に志願してから結構経った気がする。でも、実際にはまだ数十日なんて信じられなかった。




「―――アンタも、」




自分でも命知らずだと思っていた。
急に全てを思い返して、どろどろと感情が止まらなくなってしまった。
元就に食って掛かっていたのだ。





「この力を見て、」




表面で笑っている皆と同じ?

―――問いかけ目の前で、脇のそびえ立った巨木を一瞬で、粉々に切り刻んでいた。





「俺を化け物扱いする?」




そんな事言った自分が、馬鹿だと思った。
一時的な居場所。四国に戻るまでの仮宿。
戻る前に此処で…死ぬかもしれないのに、
姉さんと宗爺に会えないかもしれないのに、
理解者を求めて泣きそうな自分が居たのだ。

到底そんな感情には無縁なあの、毛利元就の前で。




―――命知らずだと思っていた。
そんな自分を知ってるから、殺されてももう文句は言わない。
半分諦めていた。だが、






「―――…用はそれだけか」




一言だけ返ってきて。彼の方から離れていく。




「斯様な小事に付き合わせるでないわ」

「ぇ…」

「早く出陣の準備を致せ」

「あ…、待って…
俺の力が怖くないの…?」




気持ち悪くないの



異様だって思わないの

―――ぴた、と元就の足が止まる。
そして少しだけ視線を、体をこちらに向けた。




「貴様の力になど興味はない。
我が望むは安芸の安寧」




貴様がすべきはただその為の、敵の排除よ




「強いて言うならば、その腕…我に買われた事」




誉と思え

―――目を見開いた。
誉。
そんな事言われるなんて思いもよらなかったから。

その言葉は心の糸を解いていった。





「う、………うぅぅ…っ、」





我慢してきた感情が、緊張の糸が解けていった。






「何故泣く」






目を細めた彼は無表情だったけど、






「だって……っ、」





すごく嬉しかった。





「うわぁぁぁあ元就ーっ!!」

「!!」



ぱふ、と元就の腰に抱きついた。
由叉を見下ろし少し眉根を寄せたが、



「貴様離「ありがとう、」



見上げた瞳とかち合う。



「我は何もしておらぬ。
…一人で騒がしい女よ」




由叉をひっぺがし、すたすたと歩いていく。
心なしか早足で。
でも彼女は追ってこなくて。




「…元就!」




―――止まりかけていた。





「そういうとこ、好きだよ」




笑った彼女。
でも振り向かなかった。
笑っていると、想像していたから。





(戯言を…)





心の中で呟いて。




感じた事のない思い





これは



計算外の想い
(感情など、不確かで邪魔なもの)
(信用など以て論外)
(なのにかき乱さるるのは)
(これは一体何を意味しておる?―――…)


end.

本編は元親落ちメインですが、同時進行で元就落ちもやるのが海風吹止です。前々からこれは決めていました。本編の元親ルートの間に、元就ルートはどうなってるのか、それを番外でやってこうというわけです。
この後も続きますので、興味有りましたら是非見てみてくださいっ。

20101031
20120908改

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