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「…………」
どうして
(こんな事になったのかしらね…)
―――口元を引き攣(つ)らせ呆れた笑みを零しながら、肩を落とした。元親と慶次に挟まれた形で正座のまま項垂(うなだ)れる。
一方両脇の二人は最早飲むというより貪るように、酒を啜っていた。
「いい飲みっぷりだぜアニキィィィイ!!!」
「前田の兄さんも負けちゃいねえ!この勝負どうなるか見えねぇぞ!」
わいわいガヤガヤと座敷を埋め尽くす喧騒。真っ赤になって騒ぎ立てる子分達の先には、更に顔を真っ赤にして酒を飲む二人の男。
「やるねぇ元親…!正直ここまで飲むとは思わなかったよ」
「はっ…こんなのまだ序の口よ!!
野郎共おぉぉッ!!!もっと持ってこいやぁ!!!」
空になった徳利を2、3本一気に掴み上へ突き出す。呼応して叫ぶ子分達。
「アニキもう何本目だ?」
「え……っと、分かんねぇ」
耳に入った呟き。
顔を上げた時だ。
「―――あぁもうダメだ!俺の完敗だよ!」
隣の慶次が床に倒れ込んで。
思わずそちらに目をやった瞬間、
グィッ、
「――え?「見たかぁ!!野郎共ぉぉぉ!!!」
「――…ッ!!!」
横から伸びてきた腕に絡み取られて。
胸に閉じ込められていた。
密着して聞こえる心臓音。それだけで恥ずかしくなって。
沸き上がった喚声なんて耳に入らなかった。
「悔しいねぇ、沙羅ちゃんは京の子達にも引けを取らない位可愛いのにな」
苦笑して胡坐をかく慶次。
心臓が飛び出しそうな位、ばくばくと脈打っていた。沙羅が恐る恐る顔を離し、慶次を見ようとした刹那、
チュッ――、
「…!!!」
「悪いがこいつはそんじょそこらの女とは別格でね。
あんたにゃ渡せねぇ」
声。
でもそれは甘く、痺れるような言の葉。
酒で顔が赤くなった貴方は、こちらが酔う位色があって。広い背も、手の温度も熱くて。
額に触れたままの唇は動きたくないと言わんばかりに、ゆるりと滑り離れる。
「なっ――…、ななななああぁぁぁぁ!!!」
ドンっ、と胸板を押して引き剥がす。開放された体は思い切り尻餅をついて倒れた。
「あぁん?」
無表情で首を傾ける元親。
「とっ…、突然何して…!!―――」
カァァァァ、と顔が赤くなっていた。
自分で言って思い出して、頭の中が目茶苦茶だ。
子分達はニヤニヤしながら、「おっ?」「おっ?」と上ずった声で、成り行きを待っている。
「ははっ、赤くなっちゃって。可愛いねぇ!」
「そ…そんなんじゃ…!!」
腕を組んでにこにこと笑う慶次。
顔を見られないように目を伏せた。
ひたすらに恥ずかしくて。この場から逃げ出したい。思っていた時、
また引っ張られて。今度は膝の上に座らされ、有無を言わせず後ろから抱き締められた。
「もっ、元親ッ!?」
「おーおー、柄になく照れてんのかァ?
今日は随分と緩いな、ん?」
「ち、違…!」
「いいねぇ、恋だねえ!」
「…ッ!!――」頬杖ついて笑う慶次。
「うおぉぉ!!」「アニキィィィ!!」「姐貴ぃぃぃ!!」と沸く座敷。
恥ずかしくて恥ずかしくて、何も言えなかった。
「貴方大分酔ってる…!」
「んなこたぁねぇよ、……ぐー…」
「ちょっと元親!?ここで寝…「寝ちゃったね、西海の鬼」
「………っ…、」
そう、寝てしまった。まさかこの体勢で。
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