「あっはっはっはっ!―――」





日が沈み紺青に包まれた頃、座敷に笑い声が響く。
膳には幾つもの料理が並び、至る所に並び置かれていた。散らばり転がった徳利、杯。それでも足りないと要求する子分達。



「いい飲みっぷりだねぇ元親!
ほらもう一杯どうだい」

「おおっ…――と。
――っはー、たまにはこんな夜もいいモンだな」



騒ぎ合う子分達を見渡しながらふっ、と笑う。
続くように見つめながら、慶次も杯を口に運んだ。




「――にしても、おどろいたねぇ。
風の便りでは聞いてたけど本当だったんだな。――長曾我部軍にも春到来ってねっ!
な!夢吉!」



肩に乗る相棒にご飯粒をやりながら笑う。杯を傾け慶次を一瞥した。



「おいおい…まるで今まできた事ねぇって物言いだな」

「だってなぁ…あんたのとこ来る度に、カラクリ弄り回して色恋話もなかったろ?」

「はっ、これでも国を背負ってんだ。
京のお祭り男とは訳が違うんでなぁ」

「う…」




元親は勝ち誇った様子で目を伏せるとふっ、と笑って。



「――あぁ参った参った!
あんたにゃ敵わねぇよ!
こりゃ早く助っ人を呼んだ方が良さそうだ。
――沙羅ちゃん!!」



広い祝宴の席。
男性陣の中、ただ一人の女性。上の黄色から次第に下の紫色に変わる着物を纏い、子分達へ酒を注いでいた彼女が、顔を上げた。





―――




「おっととと…くはーっ!
やっぱり女の子の注いでくれた酒はいつにも増して旨いねぇ!」




一気に飲み干すと満足気に笑う。



「そんな…大げさよ、慶次さん」



目を細め笑う沙羅。
どこか大人びた面持ちで落ち着いた声の女性は、慶次の知る中でも稀だろう。




「慶次でいいって!
―――昼に見た時から思ってたんだけど、あんたは素質があるよ。
飯も美味い、酒も美味い!
元親には勿体ない位だねぇ」

「なっ、…何言って――」

「アァ"ン?前田慶次。
この俺と張ろうってのかい?」




不機嫌な声に面白い、と見たのか、煽るように笑った。



「おっ、ケンカかい?いいねぇ!
じゃああんたと俺、最後まで酔い潰れなかった方が沙羅ちゃんを貰う……ってのはどうだい?」

「――は?」

「おーおー、面白そうじゃねぇか。
この西海の鬼、受けて立ってやるぜ?」


「いや、ちょっと待「いいねぇ!こうでなくっちゃ!!酒の勝者が嫁さんを制する。
前田慶次、いっちょいきますか!」

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