2
「居るかい!?西海の鬼ー!」
彼は突然やってきた。
「んぁ…?
――ぅお、前田慶次じゃねぇか!!久しぶりだな、あれか?織田の時以来か?」
快晴の下、砦に客人がやってきた。愛想いい笑顔を元親に向けながら『風来坊』――前田慶次は手を振って近づいてくる。
「そうだな、あんたも元気そうで何より!――っと、これ利とまつ姉ちゃんからお裾分け!」
言って床に半ば投げ出すように広げた風呂敷から、ゴロゴロと大根やら芋やら、更には米俵、カジキマグロを馬から取ってくる。慶次が来たと知って、子分達もあちらこちらから集まってくる。
「おっ、前田の兄さん!」
「来てたんですかぃ!」
「よう!あんた達も元気そうで何よりだねぇ!」
笑顔を絶やさず気さくに話をする慶次。まるで以前から此処に居たように馴染んでいた。
―――以前織田包囲網を持ちかけに初めて元親を訪れた慶次。情に厚い元親と慶次は直ぐに打ち解け、しばしば慶次は加賀、前田家の農産物を届けに来てくれる。それはもちろん遊びに来るついでだが。
「今回も大漁じゃねぇか!このカジキマグロも意気がいいったらありゃしねぇ」
「へへっ、そりゃ利が獲ったやつだぜ」
「おっ、こいつぁすげぇな」
「おおぉぉ!!まつ姐さんの拵(こしら)えた和え物!
アニキ!!今日の夕餉は豪華すぎますぜ!!!」
「うおぁ!!」「楽しみで堪らねぇ!」と辺りかしこから声が沸く。
いつもと一味違った夕餉。一領具足の長曾我部軍にとってはそれだけで、仕事に精が入るというものだ。
「…そうだな。
こんだけありゃあアイツも腕の揮(ふる)いどころよ。
今宵は宴だ、乗り遅れるなよ野郎共!!」
「アニキィィィイ!!!」
「アイツ?」
慶次は目をぱちくりさせる、その時。
「―――元親?一体何の騒――」
止まった言葉。目が合った。
開いた戸から現れた姿。すらりと背が高く、紺一色で統一された着物。
「女…の子?」
[ 12/55 ][*prev] [next#]
[戻]