「居るかい!?西海の鬼ー!」



彼は突然やってきた。




「んぁ…?
――ぅお、前田慶次じゃねぇか!!久しぶりだな、あれか?織田の時以来か?」



快晴の下、砦に客人がやってきた。愛想いい笑顔を元親に向けながら『風来坊』――前田慶次は手を振って近づいてくる。



「そうだな、あんたも元気そうで何より!――っと、これ利とまつ姉ちゃんからお裾分け!」



言って床に半ば投げ出すように広げた風呂敷から、ゴロゴロと大根やら芋やら、更には米俵、カジキマグロを馬から取ってくる。慶次が来たと知って、子分達もあちらこちらから集まってくる。



「おっ、前田の兄さん!」

「来てたんですかぃ!」

「よう!あんた達も元気そうで何よりだねぇ!」



笑顔を絶やさず気さくに話をする慶次。まるで以前から此処に居たように馴染んでいた。

―――以前織田包囲網を持ちかけに初めて元親を訪れた慶次。情に厚い元親と慶次は直ぐに打ち解け、しばしば慶次は加賀、前田家の農産物を届けに来てくれる。それはもちろん遊びに来るついでだが。




「今回も大漁じゃねぇか!このカジキマグロも意気がいいったらありゃしねぇ」

「へへっ、そりゃ利が獲ったやつだぜ」

「おっ、こいつぁすげぇな」

「おおぉぉ!!まつ姐さんの拵(こしら)えた和え物!
アニキ!!今日の夕餉は豪華すぎますぜ!!!」
 



「うおぁ!!」「楽しみで堪らねぇ!」と辺りかしこから声が沸く。
いつもと一味違った夕餉。一領具足の長曾我部軍にとってはそれだけで、仕事に精が入るというものだ。




「…そうだな。
こんだけありゃあアイツも腕の揮(ふる)いどころよ。
今宵は宴だ、乗り遅れるなよ野郎共!!」

「アニキィィィイ!!!」

「アイツ?」



慶次は目をぱちくりさせる、その時。




「―――元親?一体何の騒――」



止まった言葉。目が合った。
開いた戸から現れた姿。すらりと背が高く、紺一色で統一された着物。




「女…の子?」

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