「―――おぅ、着いたぜ」

「……!」




碇槍が地面にぶつかり、急停止する。
真っ白な砂が舞った。目を瞑った沙羅を抱えたまま、軽やかに砂浜へ降りる。と、もういいぜ、と言って彼女の背から手を離した。




「――……」



俯いた顔を上げ、霞む視界に軽く瞬きをする。
正面を向くと目を大きくした。




「……!!」




眼下に広がる景色。
左右どこまでも続いていく海は、地平線に沈み行く夕日に照らされて。橙色に輝いていた。その明かりは空も、木々も―――そして自分達がいる砂浜も、橙色に染めて。

きらきらと、宝石のようだった。



元親が後ろから近づいてくる。




「……な?あともう少しで間に合わなかったろ」



横に並んで。
同じく視線を海へ向ける。



「四国でもこんな雲一つねぇ日はなかなか拝めねぇからな」

「綺麗……」




表情を緩め、沙羅が呟く。
そんな彼女にちらっと視線をやると続けた。




「此処はよ、昔偶然見つけてな。
野郎共も知らねぇとっておきの場所よ」

「そうなの…?」

「あぁ、四国でもこんな澄んだ海が見れんのはそうそうねぇぜ」



そう言うと困ったように苦笑してこう呟く。



「……つっても一人で見るには余るモンでな。
野郎共はどんちゃん騒ぎで飲んだっ暮れて酒撒き散らすだろうしよ」

「…言えてる」




同じく苦笑してしまう。





「――女ってこういうの好きそうだしよ…。
――オメェに見せてぇって、思ってな」




少し声が小さくなる。
隣の彼を見るとそっぽを向かれて。
沙羅は笑みを零した。




「―――ねぇ…元親」

「何だ?」



さざ波が耳に心地よい。
紡がれる自分の名。彼女の艶めいた髪が風に靡く。




「―――ありがとう」

「―――あぁ?」





何がだよ

―――地平線に隠れかけた夕日に染まる、彼女の横顔。
まともに見れない。沙羅が笑った。




「――――何でもない」




腕を組んでくるりと俺に向きそう言う。

夕日が揺らめいていた。
―――彼女の瑠璃色の中に。
思わず息を呑む。
まるで、




(この海みてぇじゃねぇか…―――)




「……どうしたのよ?」




目を丸くして俺の顔を見る沙羅。




「いや……そのよォ」




そんな顔されたら、
まともに見れねぇじゃねぇか。




「あぁくそっ!」

「えっ!?」




彼女の肩を抱き寄せる。
夕日の光が薄れて辺りが薄暗くなっていた。




「な、何?どうしたの元親、」




さっきから貴方変よ?

―――見上げてきた彼女に、




(落ち着け…!!落ち着かねぇか俺…!!)




冷静でいられなくなる。




「…!」




一方で彼との距離に




(―――…)




恥ずかしくなる。




ァ…




優しい風に二人吹かれた。




「―――沙羅」




体が熱くなった。




「俺からお前にくれてやるよ。
…いいだろ?この景色」




忘れんなよ?…――




「元親……っ、」





嬉しくて、涙が込み上げる。




「ありがとう…っ―――」




自分を引き寄せる腕。
手を伸ばし、優しく置いた。


二人だけの場所
(貴方が居て貴方と見れたから)
(初めて分かったの)
(海がこんなに)
(綺麗なものだって事)

end.



これも本編にちらっとあった出来事です。
是非どこか探してみてくださいっ。

20101031
20120908改

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