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「……ちょ、待ってって元親」
「ほら早くしろって!日が暮れちまう」
そう言って半ば強引に沙羅の腕を引いていた。
空から届く橙の光を頼りに木々の間を縫って、どたどたと彼は進む。
「早いっ…て!ぁっ――」
どっ、と爪先が何かに躓いて。
転びそうになったところを振り返った元親が支えてくれる。
「―――…と、悪りぃ!
つぃ先走り過ぎた」
「……もう…」
少し慌てて謝る彼が、無邪気な少年のようで。
思わず笑みが零れた。
「ふふっ」
「…あ?何がおかしいんだよ」
「だって、今の貴方。
普段の貴方からは想像出来ないんだもの」
得物を振るっている時は西海の鬼なんて呼ばれて敵を寄せ付けないけど、
あんなの嘘。
だって今はこんな海だ、海だ…ってはしゃいでる。
「あぁ?そんなに想像出来ねぇのかよ」
「えぇ」
「ンだよ…、早く見せてぇんだ、仕方ねぇだろ。
―――何たって今しか見れねぇんだからな!」
「海ならいつでも見れるじゃない。
そんな急がなくても、」
「だーっ!!ヤベェ!!間に合わねぇ!!!」
「?
―――元ち…きゃぁ!!」
空を見上げたと思ったら、突然沙羅を片腕で抱き込んだ。
精悍な腕と逞しい胸板に挟まれたら逃げ道はない。
「元親!?何す「しっかり掴まってろよ?」
にっ、と見下ろして元親は鎖を握る。
「え、待っ「――…おぅらっ!」
止める間もなく碇槍に飛び乗り、炎が上がって。
弩九で走り抜けていく。生い立つ木々の間を何度も緩く曲がっては進んで体が揺さ振られて。
「きゃあぁぁあッ!!!馬鹿!!止め、
止めてえぇぇッ!!!」
「はっは、ほら首に腕回しな」
背中支えててやっから、その方が楽だろ?
―――そう言って少し意地悪く笑い、くいっと鎖を弄ぶ。
その度に、方向が振れる。
慣れているのか余裕の笑みを浮かべ、わざと首に腕を回すよう仕向ける。
「―――っ!!!…も、元親!!ふざけな、
きゃぁ!!!」
ギュッ、
―――思わず腕の力が強くなる。
あまりの怖さに言われたまましがみ付いてしまった。彼が満足気に目を細め、見下ろしてくる。
「出来るじゃねぇか」
「…馬鹿」
かち合ったお互いの瞳。
次第に心地好い海風が香ってくる。
厚い胸板に安堵して頭を預けながら、
海へと向かっていった。
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