「沙羅ーーーッ!!!」


その時もはや姿はなかった。

走った。

必死にその姿を、海に呑まれたお前を追って。
手摺りに脚を掛け、身を船外に乗り出す。そこには黒く淀んで荒れた海だけ。
だが、そんな事どうだっていい。

強く床を蹴って、渦に飛び込んだ。





―――





(―――…何処だ…!!沙羅、)



暗い海中。
揺らめきに身の自由を奪われないよう歯を食い縛る。
必死に目を凝らして、深く

更に深く

見えない底へと―――。



だが広がるのは深まる藍色だけ。



(ヤベェ…息、が……)



ごぼっ、と漏れた息。
顔が歪む。

その時だった。
藍の世界に浮かんだ白い影。
ハッ、と目を見開いて。
伸ばした腕はもう一つの腕をしっかり掴んで、
その感触を、確かな存在を引き寄せ掻き抱いた。



(沙羅…!)





待ってろ……もう少しだ…!

―――遥か頭上、海面を見上げて。
彼女を抱いて昇っていった。

[ 6/55 ]

[*prev] [next#]

[戻]


×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -