2
「沙羅ーーーッ!!!」
その時もはや姿はなかった。
走った。
必死にその姿を、海に呑まれたお前を追って。
手摺りに脚を掛け、身を船外に乗り出す。そこには黒く淀んで荒れた海だけ。
だが、そんな事どうだっていい。
強く床を蹴って、渦に飛び込んだ。
―――
(―――…何処だ…!!沙羅、)
暗い海中。
揺らめきに身の自由を奪われないよう歯を食い縛る。
必死に目を凝らして、深く
更に深く
見えない底へと―――。
だが広がるのは深まる藍色だけ。
(ヤベェ…息、が……)
ごぼっ、と漏れた息。
顔が歪む。
その時だった。
藍の世界に浮かんだ白い影。
ハッ、と目を見開いて。
伸ばした腕はもう一つの腕をしっかり掴んで、
その感触を、確かな存在を引き寄せ掻き抱いた。
(沙羅…!)
待ってろ……もう少しだ…!
―――遥か頭上、海面を見上げて。
彼女を抱いて昇っていった。
[ 6/55 ][*prev] [next#]
[戻]