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晴れない心をなんとかしたくて、部屋を出た。
由叉に「少し城内を歩いてくる」と言えば、気持ちを察してくれたのか、「何時も通り此処でだらだらしてるよ」と笑って送ってくれたから。
「――…嫌な空」
自分が引き起こしていると思うと、怖かった。
もしかしたら元親に、四国にまた迷惑を掛けているのではないか。
―――思って胸が締め付けられたのだ。
――…ゴホッ
刹那耳に入った咳き込む声。
ゴホッ…ゲホッゲホッ!!…
「っ!!、」
尋常じゃない咳き込み方に、はっと我に返って。そしてこの先にある部屋が何か思い出した、半兵衛の自室だと。
「…半、…兵衛…」
―――
足音を立てないよう、十分に気を払って。やってきた部屋の前。
襖の隙間から覗いた先。沙羅の目に入ったのは、苦しそうに息をする半兵衛だった。
「………」
見る度に細くなる背中。最近は部屋に籠もり、あまり見かけなかったが。
私がこうなった原因を作った張本人。なのに心の隅で心配している自分がいた。
「………」
彼はきっと、
自分のこんな姿を見られたくない。
だから一人、此の書斎で誰も近づかせなかったのだろう。
(私が此処にいると知ったら、)
黙って去ろう。
それが互いの為。
思い、襖から手を離そうとした。
ガリッ、
「…!!誰だ!?」
「!!」
爪が引っ掛かって。
もう隠せない。
―――仕方なく襖を開けた。
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