交錯
今貴方はどうしてる?
突然消えて闇雲に探してる?
いや、貴方の事だから
海風に吹かれるまま、船を出しているのが目に浮かぶ
―――そうであってほしい…
どんなに想っていても
叶わない事だってあるのだから
「………」
巻き込みたくない
一緒に居れば居るほど
離れるのが辛くなるだけで
「………」
だから身を退いたのに―――
「―――…姉さん」
「……」
「泣かないで…」
はっ、と我に返って。目元に指を滑らす。
「嘘…何で………――」
今胸を満たすのは、貴方から離れた後悔
そしてこれからどうなるか分からない恐怖
たとえ言葉に出さずとも
心は簡単に、表れる。
「大事な人を忘れるなんて…出来ない」
由叉の言葉がまるで自分の気持ちを言ってるようで。彼女にとっては元就。それが私にとって、元親なのだから。
でも、認めてはいけない
――きっと、認めたらいけないの
「―――――………」
勝手に消えた私に、貴方の名を呼ぶ資格なんて無いけれど
もう一度だけ…許されるなら
「元親…―――」
貴方に、逢いたい―――…
―――
「――――………沙羅?」
土砂降りの中、聞こえた声
いや、聞こえたように聞こえたあいつの声―――…
沙羅がいなくなって半月。だがまだ大阪に発てないでいた。それもこの大雨。富嶽を出そうにも大荒れで辿り着く前に、損失を出してしまうかもしれない。ただでさえこちらは戦力が足りないのだから、戦前の損失は避けたい。
「――………」
縁側を横切って雨の下に降りる。黙って空を見上げた。
(こんな所で待ってる暇なんざ)
ねぇってのによ―――…
―――
「………――やはり“彼女”の力は面白いね」
本を閉じ半兵衛は立ち上がる。嵐のように吹き荒れる空を覗き込んだ。
「“天を操る力”、か。それは生物が生きていくには好都合な能力だろう。水を生み、作物を実らせ、日の光をもたらしてくれる。…反面、その力があれば」
この天下、煩わしい武将達を一掃出来る。
その代償は少なからずある…が、それまでは持ち堪えられるだろう?
(いや、)
持ち堪えさせるよ
何が何でも、ね
(礎の完成に犠牲はつきものさ)
―――一陣の風。刹那紙の上を走っていた筆が止まる。
「―――!!う…ッ…がは…ッ!!」
――コツン、
筆が机に弾かれる。
思わず込み上げたものに、口を手で覆った。
「――が…ッ…
う……ぐ…!!」
思わず胸まで押さえ付けていた。口から離して見ると、手の平に付いた血痕。以前より濃く、多かったのだと知る。半兵衛は苦々しげに見た。
(駄目だ…まだ…)
口元を乱暴に払って。
(僕の夢はまだ)
終わらない――…。
続
20100410
20120817改
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