誰しも血は通う

『何だと…』



元就の表情が一瞬変わる。端正な顔が僅かに歪んで。



『…家族と離れて行き場所が無いんだ』

『…』

『此処に…置いてほしい。…何でもする!戦いだって!』




居場所が欲しかった。生きていれば何とかなる、姉とも会える。そう、可能性を信じて。




『……………』

『……………』




鼓動が益々早くなる。




『―――くだらぬ、戻るぞ』



沈黙を破り、元就は兵に声を掛けると踵を返した。輪刀はいとも簡単に離れて茫然とした。そして思っていた、此処でこの人を行かせたら



もう機会は来ないと。




『――…待ってって…言ってんじゃんかぁっ!』




瞬時、元就の背後に回り込み、予備刀を脇腹に近付ける。元就を睨みあげるも元就は黙って目を細めて彼女を見遣った。部下達は愕然としていたが、それも一瞬。それぞれ武器を構えて。



『よい…皆の者』



そう言うと武器を下ろす部下達。由叉に視線を向ける。



『…女、名は何と申す?』

『え?』

『名だ、早く申さぬか』



一体何を考えているのか。わからないまま、目を細めた。




『…由叉』

『…』

『聞こえてる?』



反応がない。



『聞こえておるわ。
…よかろう。―――我が貴様の腕を買ってやる』



あっさりと決まってぽかんとしてしまった。でも目を大きくしていく。



『その代わり、今から貴様は我が駒』



逃げる事は許さぬ



―――何を考えているか分からない人。視線一つで相手を凍てつかすような男。部下までも恐怖で押さえ付けているような男の元へ志願したのに。でも、正直に嬉しかった。その言葉は俺が、この先生きていくには十分だった。

込み上げてくる涙。この瞬間、恐怖、緊張、全てが緩んで。



バ――…




『ありがとう…』



抱きついていた。どうして抱きつけたのか、彼が避けなかったのか。偶然なんだろうけど。彼の顔は見れなかった、でも。いいんだ。

こんな冷たい人にも温かい血は通ってる。そう、感じて。



助けてくれた“一人の男(ひと)”として



自分の中で特別な人になっていく、瞬間だったから―――。






















「――元就は冷酷だと言われてるけど本当は優しいんだ…。それに案外可愛いらしいんだよ。女の俺なんかより、ずっと」



あ…これ本人に言ったら殺される…と、視線を脇に逸らして苦笑を浮かべる。



「…だけど俺が怒るとあの人も怒る。俺が笑うとあの人も笑う。
まあ、少しだけ…だけどさ」



素直じゃないんだ、と眉尻を下げ笑った妹に、沙羅はつられて微笑んだ。



「―――大事にされていたのね」

「うん」



俺の心を満たしてくれる大切な人



決して喜ばしい状況とは言えなくても



姉さんと会えたのも、元就と逢えたから



そう思いたくて





「――…空、晴れないね」



それでも、今此処にはいない



互いの想い人は。

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