隠れた優しさ

サ………



きつく絞められた布切れ。器用に取り外され、心地よい風が口に入ってくる。元就が布切れを投げ捨れば、風に吹かれあっという間に見えなくなった。





『――――――あ、ありが…と』



助けてくれて、と言う前に踵を返す彼。見れば彼の後ろには数十の兵がいた。



『女』

『な、何だよ』



無視されたと思えば呼んでくるその態度に、むっとしつつも、不意を突かれて。




『貴様も早々と消え失せよ。我の目の届かぬ所へな』

『…は?』

『次に会った時は容赦せぬ』

『まっ…待って!よ!…



何が何だか分からない。次々と自分の言い分ばかりを連ねる元就に思わず声を挟んだ。咄嗟に前に走り出る。



『貴様…忍か』



養父に仕込まれていた故に、早さだけは沙羅以上、忍にも匹敵していた由叉。由叉を見る元就の瞳が若干鋭くなっていた。


――ス



『!!…――』



刹那輪刀が首に触れた。冷たい刃の感触。背中がゾクリッ、震える。でも、退けなかったのだ。




『――忍じゃない、俺の義父が護身術として教えてくれた』



怖い、でも。目の前の瞳をじっと見つめた。



『…………我の行く手を何故阻む?』

『別に阻んでる訳じゃ『ならば退け』

『………』

『………』



互いに譲れずに。じっと、相手を見つめる。喉元から離れない彼の武器。いつ斬られても可笑しくないのに。逃げ出したかったのに。



頭に浮かんだ言葉は一つ。




『俺を、アンタの軍に…入れて』


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