助けてくれたのは貴方

「俺…あの日――――」










『――…コイツ!!暴れてんじゃねぇ!!』

『クソッ!こんな揺れてりゃ船が沈む!!こんなところで死ぬなんてごめんだっての!!』



安定感がない小舟の上、恐らくいるのは3人だった。口に布を巻かれ、手首も拘束され、由叉は為す術なく舟の中に投げ出されていた。




『!やっと岸だ…――』




―――




『早く運…ぐほぉっ!!
『おい!!大丈夫か!?
―――っのアマ!!』



辿り着いた岸辺。男に軽々と担がれ持ち上げられている時だ。由叉は唯一動く足で思い切り男の腹を蹴り上げた。その拍子、男の腕から抜けれたはいいが勢い良く砂浜に転げ落ちて。



『―…はーッはーッ…――
―――っっ!!!』



頭と体を打った衝撃を我慢し、顔を起こすと睨み付ける。



『ガキが…もう我慢の限界だ』

『女だからっていい気になるなよ』

『…そんなに力が有り余ってるなら少し傷ついたくらいで死なねぇよな?』





―――え?


頭が真っ白になった。自分を取り囲むように男達が近付く。




『もうジタバタ出来ねぇようにしてやらぁ!!』

『ッ!!』



キン、と聞こえた音。月明かりに刀が光り、心を染め上げた恐怖。腕を様々に動かして縄を解こうと藻掻いていた。近づいてくる男達、後ろ手に縛られた腕。緊迫の状況の中、何度も交互に目を向けて。後退しようと地面を蹴る自分の脚。だがとうとう、砂に脚を取られ倒れ込む。




『……っ…!!』



眉を顰め力なく目を細めた。



(死ぬのか―――)




本当にそう思った。その時だった。







『――貴様、此処で何をしている』




知らない声が聞こえた。刀を下ろしかけた男の手が、止まって。男たちの背後、人影が見えた。



『な、何だテメェ!』

『此の安芸で我の許可なく何をしている。…と、聞いておる』



目を細めれば、切れ長の鋭い瞳が夕闇に光る。振り向いた男達が目を見開いた。




『こいつ毛利元就じゃ…!?こんな時間に何で此処にい――』



ザッッ!!




音が、消えた。



声を掻き切った一瞬。



男達が声を出す間もなく大きな輪刀が風を切った。




『…此処は我の地。何時何処で何をしようと、貴様等賊には関係のなき事よ』




何が起きたかなんて分からなかった。只自分の周りに伏しているのは先程まで血の気盛んだった男達。元就は刃に付いた血を振り払った。



『――女、』
っっ!!!』



凍てつくように冷たい声。思考が止まった。月明かりを遮るように、由叉の前に立つ元就。
見下すそれは、声と同じ冷たい瞳。



『――貴様、何処から来た?』



無表情に言うのは見上げる視界に、夜空に縁取られるその人。だが拘束されていた由叉は為す術もない。



『…』




目を細め彼女を見つめて。突然懐から短刀を取り出すと、しゃがみ込み由叉へと手を伸ばす。はっ、として思わず目を瞑った。



――ブ




でもそれは




拘束する縄を切り落とした音だった。


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