忘れたくても
「此処に来てもう、」
半月か…
―――ポツリ呟いた由叉の声を掻き消すように、降りしきる雨。身に付けていた武器は全て取り上げられ、逃げる術を失ったのはついこの前のように思う。
「そうね、あれから何もないのが逆に気持ち悪い位…」
むしろ衣食住において何不自由なく過ごしている。さすがに敵地において衣服まで替えろと言われたのは渋ったが反抗すれば竹中半兵衛、彼は何かしらの策を講じるだろう。四国を落とそうと――元親を討とうと、躊躇なく軍を起こす。
私の小さな我が儘(まま)が彼を傷付ける。何よりもそれだけは嫌だった。何も知らない彼を、巻き込みたくなかった。
彼は私を助けてくれた
(それだけなのよ…っ、)
だから従うしかないのだ。動きづらい着物を着付けられても、髪を結われ簪を刺されても。無防備を強要されても。
沙羅は俯いた。
「……―――」
落ち着かない…――
「――――この雨も、」
口を開いた由叉に目が向いた。
「俺達の…力なのかな…」
「……」
天候を操る能力。人を喜ばせる反面、人に狙われる。仲間に迷惑を掛ける。
―――大切な人を巻き込む。
それは人間の力で制御するにはあまりに大きな力。ならそれを持つ私達は一体何者なのか。
―――何も、分からない。
分かるのは、何か恐ろしい事が起こるのではないかという不安。
「………」
この雨が私の意思なら何処まで続いているのだろう。
海の遠く、
四国まで続いているのなら
貴方は気付いてる…?
元親……―――――
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