見え始めた夢
「秀吉、助かったよ」
半兵衛は友に微笑む。此迄共に歩み続けてきた親友。
「……」
「もう大丈夫だよ秀吉。その覇気もう少し収めてくれないか?」
君の存在感に皆、立っているのも難しいんだ。君の、覇王の強さにね。
僕も圧倒させられたよ。
「――半兵衛」
「…何だい?」
半兵衛は落ちた刀を拾う。沙羅も由叉も、虚ろな瞳で床を見つめたまま動かなかった。
恐らく今頃絶望で気力も何もかも失っているのだろう。当然だ、秀吉の覇気の前に敵う筈もない。
(念の為、後で女中に他に刃物を持っていないか調べさせるとしよう)
「この娘達が、」
「ん?」
半兵衛がそう思っている時、秀吉が口を開く。
「我が天下に誠に必要なのか?」
賢い半兵衛がする事に間違いはない。今までもあった試しはない。だが目の前で震えるこの女達は本当に、ただの女にしか見えなかった。
「ああ…彼女達の持つ力。これさえあれば天下は安泰さ」
正確には<彼女>の力、だけどね
「天下は豊臣の―――君の軍門に下る」
その為には利用しない手はないのだから
「さぁ行こう、未来が僕達を呼んでいるよ」
輝かしい日ノ本の未来。きっと見える筈、この娘がいれば。
半兵衛は目を細めほくそ笑んだ。
―――
時は1日前。
「――…ア、アニキ」
「本当ですかぃ?」
「――ああ、沙羅が豊臣に攫われた」
空気が騒めく。
「豊臣って……今急速に勢力伸ばしてるあの危ねぇ野郎ですよね?」
「俺達…どうなっちまうんだ…」
辺りに飛び交う声、声。元親が『豊臣』と言うや否や子分達の不安は顕になった。心なしか子分達の声が震えているのが分かる。
「…」
俺がもっと早く事態を想定していれば
あいつの深い気持ちに気付いてやれれば
こんな事は未然に防げたのかもしれない
(沙羅―――)
前々から長曾我部軍が目を付けられていたという事なのか
はたまた彼女の能力か
相手は十二万弱、こちらは二万。戦って勝てる見込みは略、無い。
こればかりは、だ。
だが―――…
惚れた女と野郎共
どちらも大切で
命の重さは量り何ぞで決められないのも
重々承知―――…
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