絶望と恐怖
「――…感動の再会は済んだかい?」
「!!」
半兵衛は階段の傍の壁に寄り掛かり、沙羅達を見つめていた。彼を見て眉を寄せる。
「君達の仕事は二人揃って初めて出来る事だ。…さあ上に行こうか――」
その瞬間。
――ヒュッ、
「――流石だね……」
苦笑気味に、でも焦りを浮かべ半兵衛は二人を見下ろす。半兵衛の首元には沙羅の短刀が、目の前には由叉の刀が突き付けられていて。
(どうやら沙羅君は短刀を腿に、由叉君は予備刀を腕に潜めていたようだね)
気付かなかった。
(…全く、こんな娘達が名も知られずいたなんてね)
一筋の汗が頬を滑る。後ろの沙羅を一瞥した。
その力も豊臣の為に振るってもらうよ―――…
「…何が可笑しいの。私達を解放したのが貴方の敗因なのよ?」
武器を目の前にしても、涼しい顔で見つめる紫の瞳に沙羅の顔が厳しくなる。先手を取ったのは私達の方だというのに。
(何、この感じ…)
「俺達を女だと思って甘く見ない方がいい」
由叉の大きな瞳が細く、鋭くなる。
「…直ぐにでもアンタの首取れるよ?」
取ってやろうか?そう言って由叉の切っ先が近付く。少し嘲笑を含めて、茶色掛かり先が跳ねた髪が揺れる。背筋が凍った。まるで私が知らないうちに戦に慣れた、躊躇いのない手つき。
だが周りの兵士が刀を構え、思考回路は絶たれる。思わずぐっ、と刃を半兵衛の喉元へ近付けた。
「――動かないで、貴方達の上官がどうなっても知らないわよ」
決していい状況とは言えない。でもこの好機、逃したらもう。とにかく一刻も早く今はこの場を切り抜けるのだ。
―――カシャ、
途端、背後から聞こえる音。
―――カシャ、
階段からの足音
(誰……?)
―――ガシャンッ、
「ッ!!」
重い鎧音に息を飲んでいた。後ろに誰かいる。
でも体が…動かない
―――ふと自分の目の前の由叉を見た。膝がガクガク震えていて。その目は恐怖に揺れていて。何が起きてるか分からない。でも振り向けないのだ。言えるのは瞳を動かす事すら許されない
絶対的威圧感。
「姉…、さん…ッ…」
カラン――
地に落ちる刀。釣られたように座り込む妹。
「どうしたの…由―――」
振り向くとそこには仁王立ちの大男。
「女…貴様、我が友に何をしている?」
「あ…ッ…」
低く、重い声。全身に伝わる恐怖。身じろぎ一つ出来ない感覚。遅かった。手に力が入らない。
―――カランと滑り落ち、ドッと地面に膝をつく。
無理よ
到底逃げられない
怖い
震えが…止まらない…
元親…っ――――――…
一気に希望は絶望へ変わり果てる。
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