かけがえのない願いは

「…離して!!」

「大人しくしろ女!」

「…くっ」



ぐいっと後ろ手に縛られた両腕。強く引っ張られ沙羅は眉を顰めた。だが直ぐに腕を掴む兵を睨み付ける。聞いた話だと今向かっているのは地下。目を覚まし暫くして無理矢理連れ出されたのだ。



「全く…、元気なお嬢さんだ。あれから2日も経ったのにまだそんなぴんぴんして」



先頭立って自分の前を歩く白と紫の影―――半兵衛は差し掛かった階段を下りていく。それに従う兵士達に引かれる自分は、為す術なく歩くしかない。




「ふざけないで!!
何が妹に会わせるよ、全くの嘘じゃない!!」



五分五分の期待。それを持ちながら対峙した結果がこれ。結局自分は中途半端だったのだ。



「嘘?会ってもいないのに言いがかりはやめてもらえないかな」

「え…」

「僕は下手な嘘はつかない人間だ。此処大阪城にちゃんと招いているよ。でも君が否定するなら、向かうだけ無駄だね」

「待って…、どうして此処に由叉がいるの…
まさか貴方が由叉を…、」

「勘違いしないで欲しいな。
…寧ろ君と同じようなものだよ、沙羅君」



半兵衛の脚が止まる。従う兵士の脚も止まり、沙羅は前を見た。






(!…)






ずっと奥の牢屋。そこには服は違えど変わらない顔。

薄緑の装束は上が短く、サラシを巻いているのが見えた。その上から首を穴に通し被るような更に短い薄黄色の外套は透けている。最後、首元には黄色の襟巻が巻かれていた。



「由叉……!?」



沙羅の声に反応して。己の膝に埋めていた顔を上げる。大きな藍色の瞳は間違いない。



「ね、姉……さん?」

「――…離して!!」 



兵の腕を振りほどき鉄格子に迫る。腕が自由でない為、膝をつき目線を合わせた。



「由叉なの!?
どうして…こんなところに…」




豊臣なんかに…




「心配かけてごめん…」



沙羅は泣いていた。望みが叶ったのだ、ずっと願っていた再会が。半兵衛はその様子を見ながら後ろの兵に言う。



「君」

「はい、半兵衛様」

「あの格子の鍵を外して彼女の縄を切ってくれたまえ」





―――






「―――…姉さん!」

「由叉!」



抱き合った。久し振りに感じた血の繋がった家族、その温もり。ずっと探していたかけがえのない妹。



「ごめんなさい…貴方をあの時助けられなくて…」

「そんな事いい。俺はこうして無事なんだから…」



涙を流すまいと意地を張る一つ違いの背中。
しっかり確かめて目を閉じた。

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