閉じる目蓋
「――…あぁッ!!」
体は宙を舞い、バランスの取れないまま砂浜に叩き付けられる。砂浜だったから衝撃は幾分和らいだものの。
「カハ……ゲホッ
…はっはっ…!」
(ど、して)
「ご苦労だった、風魔。でも殺してはいけないよ。…大事な客人だからね」
半兵衛の前には1人の男が立っていた。
長身で覆面をした――男。風魔は無言で頷くと一瞬で脇に控える。
「…うっ…」
「沙羅君」
「…ッ!!」
呼ばれて、体が震える。怖い。小さい恐怖はあっという間に膨れ上がり自分で自分の体を縛り付けていた。半兵衛が腰の長剣を抜く。それを掌で軽く叩きながら沙羅を見下ろす。
「…今の君の行為は、長曾我部から豊臣への宣戦布告と受け取っていいのかな?」
「―――!!」
頭が真っ白になる
「折角会わせてあげると言ったのに」
残念だよ、と。
(――何考えてるの…今更…)
―――フッ…
(こんな期待するなんて…)
彼の姿、笑顔。思い出して思わず自分を嘲笑った。
(迷惑は)
掛けられないのよ―――…
――俯せになった体を持ち上げ、半兵衛を睨み付けた。見据えるように観察する落ち着いた目を。
「――…私は…」
「……?」
「貴方の好きにはさせない!!」
刹那、沙羅に背後を取られていた。風が靡く間もなく。
(!?速い―――…)
そう思い背後を一瞥した時には、沙羅が太股に潜ませた短刀を振り抜いていた。
「はああああッ!!」
向かい来る刃、半兵衛は振り向こうとする。その時、
――ドッッ
目を見開く。
背中に一筋の痺れ。大きく視界がぶれ、閉ざされる世界。頬を擦った刀は手から滑り落ちる。フラ…と傾いた沙羅を風魔が抱え、担ぎ直した。
「…助かったよ、風魔」
半兵衛は刀を鞘に収めた。
「――…」
気を失った彼女を見つめ目を細める。
(…にしても)
「噂通り、ただの女…ではないようだね」
瞬時の身のこなし、速さ、強さ。予想はしていた、が思った以上だ。
半兵衛は頬についた刀傷を払う。
「彼女には兵としての活躍も望めそうだ…フフ」
目を閉じて。
「――…さぁ、戻ろう風魔。
早く此処から「待ちやがれえッ!!」
突然の怒声。半兵衛と風魔が振り向いた。
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