その瞳に残して

――此処は長曾我部軍の砦。その中の小さな部屋。月明かりが外から差し込んで沙羅の顔を照らす。



「……―――」




この明かりを浴びるのはこれで30日目。一月が経った。今日の月はやけに綺麗。



こんな日は一緒に居たい。



一緒に居て月見酒を



今度は心から貴方への一杯を



でも



「ごめんなさい…元親…」



こんな日に限って月は満ちる




憎らしくって堪らない




沙羅は立ち上がると静かに部屋を後にした。




――――――




――どの位歩いただろう。



月明かりの下、ずっと下ってきた。暫らく歩くと目の前に見慣れた坂。此処は、



(元親が…)



まだ砦に来て間もない頃、無理矢理腕を引かれ連れ回された海辺。



『――…夜は危ねぇから気ぃ付けろ。…っても1人で此処に来るなんて事、俺がさせねぇからな』



今になっては懐かしい



私が憎まれ口叩いても



貴方から返ってくるのは優しい眼差し



夜の海風の寒さから



いつもその体が守ってくれた



『――…坂さえ降りちまえばこっちのモンよ。…ほら見えてきた――――』



ええ…見えるわ
とても綺麗―――…

――沙羅の瞳には深い蒼に包まれた大海原が映っていた。それは、真珠のように月に艶めく海。



『俺からお前にくれてやるよ。
…いいだろ?この景色』








忘れんなよ?…――





そう言った貴方の声
今もちゃんと覚えているから……





(どうして…)



涙が溢れていた。未練なんて、あってはならない。なのに、砂浜を濡らす一粒の雫。




「……」




波の音以外、風に溶けていく。思い出も、皆と過ごした日々も
―――その太陽のような笑顔も…

沙羅が空を見上げた。



ザッ―――…

刹那、聞こえたのは



「―――来てくれたんだね」



沙羅君



20100331
20120813改

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