焦る思い

「……おめぇら、ご苦労だったな。コイツ相手に踏ん張ったじゃねェか」



沙羅をくい、と顎で差す。すると彼女は腕を組んだ。



「元親、貴方とも手合わせしたいわ」



元親が溜め息を吐いて頭を掻く。



「さっきもやっただろうが」

「まだまだ。大丈夫よ、ほら早く!」



沙羅は距離を置き刀を抜く。



「………」

「どうしたの?」



(コイツ何を急いでる?)




元親は眉を顰めた。ここ何日かずっとこんな調子で。



「西海の鬼なんて名だけの逃げ腰城主なのかしら?」



最初はいつもの事だと思っていた。が、この急ぎぶり、おかしいと思わない訳がない。



「―――…てんめぇ、黙ってりゃ好き勝手言いやがって」



顔を上げて沙羅を見る。こちとら心配してるってのによ。



「…ったく、誰が逃げ腰だぁ?いいぜ、相手になってやらぁ」

「…そうでなくちゃ」



―――バ!!

そう言うと駆け出す沙羅。向かってくる彼女を黙って見据え



ガッッ!!



交わる音が響いた。



「――お前、何かあったか?」



そう思うのは、眉を顰め歯を噛み締める程沙羅を駆り立てるものが何か分からないからで。元親は両刀を碇槍で受け止めながら目を細める。



「…何も。
――ただ早く強くなりたいだけ」



元親は勘がいい。考えてる事が手に取るように知られてしまう。



受け止めてくれる。



でも



いくら貴方でも



いいえ…貴方だからこそ




近くに




近過ぎるから








言えない事だってある――…。



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