強さの先

――行くぜ、うおぁぁぁぁぁ!!」






晴天の下、砂ぼこりが宙に舞う。騒がしい足音が鳴り響き。



―――ガンッ!!



「――…はッ!!」

「「「「うお!?」」」」



―――グンッ、



子分達は地面に引っ繰り返る。交じりあった刀は宙を舞い地面に刺さった。ふわっ、と海風を受け靡く赤茶の髪。



「ちっくしょ…強いなぁオメェ…前から強かったけどよ」



子分の一人が頭を抑えながら言う。

――沙羅が砦に来て一月。
元親に直接稽古を頼み、二人猛特訓をしていた。毎回自分等はヒヤヒヤしながら見ていたが。

まず“女”が自分達の頭に闘いを申し出るところから驚きだった。此処四国を平定した頭に、たとえ武器とはいえサシでやり合うなど、命がいくつあっても足りない、自分等なら。だがそれが彼女の強さなのだろう。今こうして自分達が束になってかかっても難なくやられてしまった。

沙羅は両手の刀を両腰に収める。少し短めな鍔のない刀。



「私もまだまだ…もっと強くならなきゃね」



こんなものじゃ駄目

こんなものじゃ…――



視線を下ろし沈黙が流れた。しかし直ぐ笑顔に戻って子分達を見る。



「――…ごめんなさいね。無理矢理付き合わせてしまって。大丈夫だった?」



何とも無げに言う彼女がなんとも憎らしい。が、その表情は初めて会った時よりもずっと柔らかくなっていた。子分は一人一人起き上がりながら沙羅を見上げる。

両腕に巻かれた白い包帯。袖がない服で、剥き出される腕を隠すように覆っていた。襟の間から覗く素肌。腰と、太腿を隠す薄い着物からすらりと伸びる脚。

その視線に沙羅は目を細め不審気に口を開く。



「―――…何?
さっきからじろじろと」

「いっ…いやー、ホントにスゲェなってお前の「おい!」



言い掛けた子分を隣の子分が殴る。色気…なんて言い掛けたが。危なかった。恐ろしい、何よりアニキが。いや双方か――とぼんやり考える。

動きやすいからいうのは分かるが、その為に丈の短く振り袖のない着物を、あの彼女が了解したのがすごい。自分達の頭がわざわざ城から取り寄せたそうな。それを着せようと、毎晩渋い顔をする沙羅を最後は口説いて認めさせたとか。彼女自身は色気も何も考えず実用性で動いているようで、その無意識は完敗だ。とはいえ、もう沙羅も着慣れたようで稽古はいつもこの格好で来るようになった。




(流石…アニキだよなぁ)

(よく…口説き落としたよなぁ)

(アニキにしか沙羅は扱えないもんな…)



そんな事を考えていると、彼女が眉を顰める。



「何なのよ?さっきから…。何考えてたか聞かせてほしいわね」

「あ…いや、」

「姉貴強えし長曾我部軍も安泰だなって…ハハ…」

「…?
だからその『姉貴』って止めて欲しいって言ってるじゃない。それに今は違う事考えていたのでしょう?」

「えっ、『姉貴』嫌っすか?」

「沙羅でいいって言ったじゃない。
慣れない呼び方って…なんか気恥ずかしいのよ…」



戸惑うように目を背けて。気付く。そうだ、彼女はよく恥じる。それも変なところで。それでいつも赤くなって顔に出る。



(ツンデレだもんな…)

(成る程アニキはこれにやられたんだな)

(アニキ…お幸せに!!)



強気な彼女が折れる瞬間は確かに悪くない。特に自分達の頭は好きそうだ。途端沙羅がはっ、として再び眉を顰めた。




「―…そうじゃなくて!!何!何が言いたいの!?
男ならはっきりしなさい!」

「うぉ!?」

「いや、何でもねぇって!」



ザザッザッ―――…



その時、後ろから聞こえてくる砂を蹴る音。



「「「「アニキイィィィィ!!」」」」

「元親」




得物を肩に担ぎ、元親は笑みを浮かべていた。


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