月下の再会

その夜―――海は月に照らされていた。昨日とは違って美しい月の影が水面に映る。



「…どうした?おめぇが俺を呼ぶなんてよ」



船首にいる彼女、沙羅に呼ばれたのだ。



「元親」



彼女の声はどこか真剣で。



「…どうして信じてくれたの?」

「あぁ?」



突拍子もない発言に思わず疑問が浮かぶ。沙羅は月を見たままだ 。



「お前は蔵ノ介の娘なんだろ?それで十分だろうが」

「…甘いわね。私は貴方達を一度貶めた。そんな私を本当に…」



置いていいと…思っているの?―――

元親は溜息を漏らす。何を言い出すかと思えば…こういう慎重過ぎるところは困りモンだな。
そう、思いながら。



「逆に聞くが…あんたがあんな芝居うってまでこうしている理由なんてあんのかよ」

「…間者かもしれないわよ」



頭を掻いて、息を吐いた。
こいつは



「…」



怖がっている。人を信じる事を、自分自身を。罪悪感を持って、過去を省みて己を責めている。



「とっくの昔にその疑いはしてる。でも白だ」

「そんなこと、いえないでしょ」



だからたまにこうやって、変に自虐的な発言をするのか。そうやって思うほどのものを抱えてきたということだろうか。



「それで?」



反面、試されているとも思いながら。



「その能力辺りは嘘じゃねぇだろ?実際経験したしな」

「………」

「海に転げ落ちたてめぇが言える腹か」



沙羅は困ったように眉尻を下げ笑う。



「貴方…優し過ぎるのね」



その無理に苦しさを隠したような笑みを見て。いつかこいつを心から喜ばせたいと、思っちまう。

隣に並び共に月を見上げた。



「貴方に…これ」

「――あぁ、そういやあの日持ってたもんな」



沙羅が出した小太刀は話で聞いたものだろう。そして海に落ちた時も持っていた。



「今度は、」



逃げるんじゃない



「預かって欲しいの」



これは



「私の力を増幅させてしまう。私が持っていると、ちょっとした感情の起伏で災いを起こす種となる…あの時の嵐のように」



元親が目を細む。確かに二度もあったあの嵐は少しおかしかった。大惨事に至らなかっただけ良かったが。



「お前があれを呼び寄せたってのか?」



信じ難いものだ。でもこいつなら頷ける。成る程、よからぬ輩は手に入れたくなる力だ。



「そう、驚いたでしょう?」



さらっと答える沙羅。



「本当に俺が持ってていいのか?」

「ええ、貴方は強いから。安心して預けられるわ」



沙羅は笑った。



「――そうか。じゃあ大切に預かっとくぜ」

「あと…頼みがあるの」

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