優しい海賊達
「沙羅、聞こえてるか!?」
「!」
はっ、として見開くと隻眼に見つめられていて。長曾我部元親…西海の鬼…。
―――そうだった、私は皆に話していたんだった。
「ごめんなさい…ぼーっとしてた」
「大丈夫だ、続きいいか?」
船首に寄り掛かりながら元親は言う。
「宗爺が亡くなってほぼ七日後。村は襲われたわ…それが、」
「…あの日か」
俯いた。沙羅を見つめると肩を竦めて言った。
「だが驚いた、蔵ノ介…あいつの生まれがあの村なんてな」
「!本当に…」
長曾我部軍にいたの?、言うと元親は頷く。
「ああ、つっても俺がまだガキだった時だ」
子分達は皆顔を見合わせる。
「おめぇらが知らねぇのも無理はねぇ。ガキの時だけだしよ、俺が世話ンなったのは。元々体が弱かったからな…迷惑掛けらンねぇって家臣を辞めたんだ」
だからあの村で名を隠して暮らしてたのね
体は元から弱かった…――
「――…おめぇ…泣きそうだぞ」
暫しの沈黙の中。子分の一人が隣の子分に言う。
「んな事ねぇよ!放っとけ!」
「おめぇも泣きそうじゃねぇか」
「んなっ」
そんな会話が辺りかしこから聞こえてきて。甲板の上は騒めき始める。
「野郎共、泣いてもいいんだぜ?誰も見りゃしねェよ」
泣きてぇ時ゃ泣いたっていいだろ?
その言葉にはっとした。そして周りはアニキ、アニキィ…と騒めく。
「「「アニキィーッ!!…」」」
「うわあぁぁぁぁ!」
「畜生ぉぉぉっ!!なんて泣ける話なんだ!!」
「アンタの事とやかく言って済まねぇ!!ホント済まなかったぁぁ!!」
辺りにはひーひー言いながら泣く子分達の束。目を丸くした。
「…たく、野郎が揃って泣くのかよ。フッ…相変わらず涙脆ぇ奴等だぜ」
聞こえる声。目を向けると思いがけず目が合って。
沙羅は下を向く。上気した頬が恥ずかしくて。
「…顔上げな」
言葉に誘われ顔を上げた。
「――確かにあんたは辛ぇ事ばかり遭ってきたかもしれねぇ。だが」
彼が笑う。頼もしい笑みを浮かべて。
「少なくとも、あんたは一人じゃねぇさ。部下の頼みとありゃあこの長曾我部元親―――受けない訳にはいかねぇしな」
「いい、の…?」
「女一人助けらんねぇなんざ海賊の名が廃るってモンだ」
その言葉に子分達が「お?」「おぉ!?」と湧く。
沙羅はどうしようもなく恥ずかしくなった。元親はそんな子分をぐるりと見回し沙羅に向き合う。
「それにおめぇの妹、生きてる可能性は高ぇ」
「!」
「あんたのその力、確かに珍しい代物だ。狙われるのも頷ける。…妹さんも、持ってて連れてかれたんだろ?」
生きてる…そんな意味合いで言われるのが凄く嬉しかった
「ンな見た事ねェ能力持ってる奴をそう簡単には殺らねェよ。…それに」
すっ、と目を細めて。
「これにはぜってぇ、裏で糸引いてる野郎がいる」
『“あの方”が我らに自由をくれると言ったのだ』
「蔵ノ介は頭がキレる奴でな」
「…えぇ」
「参謀をやってた位だ。そいつが言うってこたぁよっぽどだろうよ」
元親が腰を上げ、沙羅に近づく。そして手を差し出した。
「…あんたの命、この西海の鬼が預かる。
―――いいな?」
『…暫くお前の命、俺が預かる』
見つめる彼の隻眼が細くなる。思い出す同じ言葉、あの時。胸が熱くなる。
スッ―――…
大きな手に触れれば直ぐに握り返してくれて。
はっと、した私に彼は言う。
「―――任せな」
「ありがとう」
面倒かけるわ
――そう言って沙羅は元親を見つめ返した。
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