遅すぎる迷いの先に


『宗爺ッ!!』



直ぐ家に引き返し、宗定の背中を擦る。



『………ッ!!―――』



思わず床を見る。
赤い血。
床をゆっくりと真っ赤に染め上げていく。
尋常じゃない量に頭が真っ白になった。



『大丈夫だ…』



聞こえるがまま視線を戻した。
はっ、として。
直ぐ唇を噛み締め俯いた。
擦り続ける背中。
少し落ち着くとゆっくりその体を寝かせる。



『沙羅…聞け…』

『何も言わないで…お願いだから…』



宗定の為に薬の調合を学んだ。
でも義父の体を治す事は出来なかった。
開発したくても、此処では採れる薬草の種類が少な過ぎる。
かといって、城下に行き帰って来れる程のつてもお金もない。
それ以前に、今の義父を置いて何日も離れる事など無理だった。
今の沙羅に出来る事は
只々願い手を握ってやるだけ。



『俺は長くない…』

『ッ!!…』

『俺が死んだら
この村を早く去れ…』

『何言ってるの…』

『沙羅』







『お前も狙われる。…村から早く、出ないと…。村も大変な事に、なる…きっと』



両手で包み込んだ大きな手。
ごつごつした、でも温かい手。
頭を深く下げ泣き顔を見せまいと、必死に隠して泣いていた。
その時、ガシガシと頭を撫でられて。
目を見開く。



『泣くな…』



沙羅



『村を出て…長曾我部元親殿に会いに行け。
蔵ノ介の娘だと言えばきっと、助けてくれる』

『蔵ノ介って…宗爺の名…?』

『ああ、そうだ…そして俺が世話になったのが、長曾我部軍だ』

『!』



益々意味が分からない
あの海賊…西海の鬼の軍に…?
―――するとまた激しく咳き込んで
沙羅の思考は停止した。



『分かった!分かったから…
もう喋らないでちょうだい…っ』

『…お前には迷惑掛けた』



深く一呼吸して。



『―――大丈夫だ』



そう言って、
そっと頬に触れる。



『俺もずるい男だ…』



お前達が力の所為で
村に居づらいのを知っていて
あの時…行かせたんだからな



≪……≫



『あの時の由叉には悪い事をした…』



泣きそうだったのを、忘れられない



『……』



その言葉に沙羅がふっ、と微笑んで



『そんな事知ってる』



ぎゅっと宗定の手を包み込む。



『私達の為に…言ってくれた事だって』



私達の立場を案じて
言ってくれた事だって

―――宗定は目を丸くした。
が、直ぐ優しく見つめ返した。



『お前は、』



強いな



『この先…辛い事が沢山あるだろう』



今以上に苦しい事も
きっと



『でもな…諦めるな』



必ず



『お前を助けてくれる人がいる』



だから一人で抱え込むな―――。
言えば沙羅の瞳が揺らぐ。



『そんな顔…するんじゃねぇ』



ぽん、と頭に手を置かれて。



『由叉は生きてるさ。
俺の頭がきっと、助けてくれる―――』



大事な娘達は、あの世に行っても見守っていく。
由叉にもそう伝えてくれ。
そう言う宗定の顔は本当に安らかで。
――そう思った矢先、ゆっくりと閉じられる目。



『嫌……やだ…。
嫌よ宗爺ッッ!!』



分からない。
此処を出て私は生きていけない。

私の世界は此処だから。



『嫌ぁぁぁぁッ!!
目を、目を開けてぇぇぇ!!』



只々そう願って、
泣き崩れて、
でも何時になってもそれは叶わなかった。


[ 24/214 ]

[*prev] [next#]

[戻]




×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -