狂い始める歯車

――あの日だった。
私は由叉と一緒に薬草を探しに行っていた。





『姉さん!』
『あった?』



これならいいんじゃない?
そう言って由叉は沙羅に薬草を投げた。
定期的に、村から少し離れたこの森に来る。
今日もそう。



『…っと、これ位がちょうどいいわね』



籠一杯に入った薬草に満足気に言って。
真っ暗闇の中にいる由叉に向かい声を上げた。



『戻りましょう!
此処はあまり長くいると危険だわ』



いい薬草は沢山ある。
でも近頃は賊が出ていると有名だ。
しかも人攫いと聞く。
賊と遭った時は逃げるが一番だが、万が一の為宗定から護身術を学んでいた。
お蔭で人並みならぬ戦闘力が備わった。



それが甘かったのだ。



『――!!…』



不自然な物音が聞こえたのは一瞬。



『………由叉?』



直ぐに辺りは静まり返る。
まるで何もなかったかのように、不気味な静けさが纏わり付く。
息を飲んだ。



『何処…由叉ッ!
何処にいるのッ!?』




早まる鼓動。



『由叉…
由叉ァッ!!』



闇雲に叫んだ。
薬草、そんなのどうでもよかった。
暗闇に一人居る怖さ、居た筈の彼女が居ない事。
両方の恐怖から抜け出そうと、知りもせぬ先を唯突き進んだ。



―――



『――……はぁッ……は…』



立ち止まっていた。
薬草が散らばり無残に残された光景。
息を切らしながら近付く。
きっと此処だ。
散らかった薬草の手前、どっとしゃがみ込んだ。



『どう…して』



沙羅は両手で顔を覆い、泣き崩れた。



―――



『――…』



一人留守をしていた宗定が眉を寄せる。



(もう、)



日が沈む。

―――外に出て目を細める。
こんな綺麗な夕日は久し振りだ。
同時に不気味と思っていた。
理由もなく。



その時



『沙羅!』



見えた姿。
名を呼べば、顔が上がり走って来る。
宗定の胸に飛び込んだ沙羅。
肩が震えていた。



『…どうした、由叉は?』



ひたすらしがみついて泣いていた。



『何があった、沙羅』

『宗爺…っ』



ぎゅっ…



『由叉が…連れ去られた…ッ』

『!!』



目を見開いて顔を歪めた。



『…そういう事なのか……』

『え……』




どういう事…



『お前に全て…』



話さなきゃならない。


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