あるまじき力


『あれから15年か…』



ふと聞こえた宗定の声。



『どしたの宗爺?』



由叉が目を丸くしておわんの野菜を退けながら言う。
沙羅は眉を顰めた。



『貴重な食料でしょう!食べなさい』

『うるさいな…野菜嫌いなんだよ』



由叉が顔を顰める。
いつもの風景。



『――…飯の時くらい静かにしろ』



宗爺はやれやれと目を閉じる。
でも少し頬を緩めた。



『いつかはお前らだけで支え合わなきゃいけなくなるんだぞ』



刹那激しく咳き込む宗定。



『宗爺!!』



沙羅と由叉は傍に駆け寄るとその広い背中を撫でた。



『……大丈夫だ。
それより二人とも、行く時間だ』



水不足なこの村では毎日、決まって行われている事がある。
それには沙羅と由叉が不可欠なのだ。

宗爺は口元の血を拭って
沙羅と由叉を手を除けると自分の寝床へ歩いていく。



『『………』』



最近だ、こう吐血するようになったのは。
体は弱くなかった、と思っていた。
だが負担が大きかったのだ、
1人で2人養っていくのは。



『今日位いい…俺は宗爺の傍にいる…!』

『私も…宗爺が心配よ。皆には事情を話して『行け!!』



近寄りかけた沙羅が止まる。



『…お前達にしか出来ないことなんだ。
この干伐の中…雨を降らし日を照らし、風を操る。その力のお蔭で俺達は…村の皆は食ってこれた』

『…』

『お前達がいなけりゃ俺達は、』



生きてけねぇんだ



『行け』



沙羅が目を細めた。



『――……分かった』

『姉さん!?』

『皆に心配かけちゃいけない、私達は私達にしか出来ない事をしましょう。
…由叉』



沙羅が振り返らず外へ向かう。



『………』



由叉は戸惑いながら交互に二人を見て、俯いた。
歯を噛み締め拳を強く握って。
震える細い肩、宗定は目を細めた。



『由叉…』



ぎゅっ、と更に握り締めた拳。
顔を上げると泣くまいと耐えた顔を一瞬向けて
由叉は外へ駆け出していった。



―――



『―――…お!
沙羅遅かったな、何かあったのかい?』



村の外れ、自分達を呼んだ村人の家を訪れると快く迎えてくれた。



『いいえ、大丈夫。
それより遅くなってごめんなさい』

『いいやいいや、こっちこそ毎度毎度済まないねぇ…今日もよろしく頼むよ』



畑に通されて今日も、見た事のある光景が広がる。
目の前には渇いた土と、作物の小さな芽。

沙羅は目を細め隣の由叉を見る。



『由叉』

『うん』



2人空を見上げ、目を閉じた。
そうすれば風が2人を取り巻いて



ポ、ツポツ――……



静かに降ってきたのは雨。
だが直ぐ様ひとしきりの雨が降り注ぎ、暫くすると日が差し込んだ。
村のあちこちから「すげぇ」「天女だ」と賞賛が上がる。

これが2人の力。
雨、日光、風…2人が望めば望んだ通りに起こるのだ。



『おぉ!!いつもながらお前達はすげえなぁ』



目を輝かせながら恵みの雨に濡れた作物を見つめ
直ぐ沙羅と由叉の手を握った。



『これからも迷惑かけると思うが、よろしくなぁ』

『迷惑なんてそんな。こんな事でいいならいつでも力になるわ』



沙羅は微笑む。



『あっ』



由叉が声を上げた。
沙羅もつられて空を見上げる。



『綺麗な空…』

『本当ね――綺麗…』













ずっとこんな日が続くと思ってた。





あの頃は……
あんな事が起こるなんて




知る由もなかったから――…



20100325
20120808改

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