信頼関係
「つまり…あんた、自分が何者だかよく分からねぇって事か」
「そうよ」
沙羅は寝床から起き上がり言う。
大嵐から一夜明け、子分達は見つけた、沙羅と元親が甲板に寝そべっていたのを。どうして2人がこんなところにいるか分からないまま元親に促されて自分達の仕事に戻ったのである。
(おぃおめぇ押すなって!!)
(アニキに盗み聞きばれたらヤベエって…戻ろうぜ?)
(だっておかしいだろ!!俺らが起きたときアニキとあの女びしょびしょでしかも一緒だったんだぜ!!
何かあったに違いねぇ…)
アニキは手が早ぇからなぁと、ニヤニヤしながら元親の部屋を見る子分もいれば、あのアニキの言う事を大人しく聞いておいた方がいいと焦る子分もいた。どちらにしろ仕事に戻れず元親の部屋に入るか入らないかで迷っていた。
(―――…何やら騒がしいな)
元親は扉の向こうの騒がしさに気が付く。
「…なに?」
沙羅が元親が立ち上がったのに反応して言う。
元親は階段を駆け上がり扉を開けた。
「ア、アニキ…」
そこには思った通り、子分達が集まっていた。元親が来たのに驚いて硬直している。元親は訝しそうに子分達の顔を伺った。
「オメェら、どうした?
雁首揃えて立聞きなんざ…どういう要件だ?」
「何でもねぇっす!!すいやせん!!邪魔しちまっ「アニキイィ!!昨夜何かあったんですかい!?」
喋っていた子分を押しのけ飛んできた言葉。
「俺達が寝ている間に…」
沙羅と…
―――そう言葉が途切れると周りの子分達も「おおおおぉぉ…!」と声を上げる。おい、やめとけってと制する声は届いていない。
「何よさっきから…」
何も知らない沙羅が近付いてくる。彼女を見つけると「おっ!」と声を漏らして。
「オメェアニキと夜、あったのかい?」
これよ、これ
―――と、にまにましながら喋る子分。
沙羅が目を丸くして、顔を真っ赤にする。
「はぁっ!?そんな…ぐ「ぉおっと」
声を張りかけた彼女の口を片手で押さえると自分の胸に閉じ込めた。信じられないといった目で見てくる彼女から目を離し、子分達をぐるりと見回すと僅かに歯を見せ不敵に笑う元親。
「知りてぇか?」
こくこく、と頷いて頭を見る部下達に目を細め
満足げに口角を上げる。
沙羅の体温は急上昇だ。
「―――教えねぇ」
「ええぇぇぇぇぇ…!!」
そんなぁ…、
アニキィ…教えて下さいよ…!
と、様々飛び交う。
「それより、だ。
丁度いい所にきた、オメェら。…コイツの話、オメェらにも知らせておく必要がある。
―――いいだろ?沙羅」
手が離れて、
「…っはあ、もう、息ができないかと、思った…」
沙羅は元親を羞恥と悔しさの混じった瞳で睨み付ける。
「何も口塞がなくていいでしょう!本当のことを言おうとしただけなんだから!」
「あぁん!?てめぇの為に濁してやったんだろうが!こういう事は白黒はっきりさせなくていいんだよ!」
「白なのははっきりさせるべきでしょ!?この変態!」
「な、」
二人の言い合いをぽかんと見ているしかない子分達だった。
―――
そして改まって甲板に全員が集まる。沙羅を囲んで、座り込んでいた。沙羅が力なく瞳を細めたのを見て、「しまった」と困惑する。
「アニキ…」
「なんかすいやせん…」
頭の意向とはいえ、こんな場を設けさせたのは申し訳なかった。沙羅の事を聞ける良い機会ではあるが。
「あぁん?謝る事じゃねぇよ、暫くこいつは此処に留まるからな」
「お前らも知っておいた方いいし、何よりこいつが言っておきたいってな」の言葉には目を丸くした
。「…何よ」と不機嫌そうにした表情からは想像できないが。
「アニキ…」
「まぁ、こういう奴だから大人しく聞いとけ」
子分達はグスグス鼻を鳴らして泣き出しそうになる。元親は目を丸くした。
「俺達まで気ぃ使ってもらってホントありがてぇっす」
「2人だけの大事な話だろうに…」
「そんなおり行った話じゃないわよ」
沙羅の苦笑が今までになく優しいもので。ますます心が緩み、
「うおおおおおお〜っ」
「最後までお供しますぜアニキっ!!」
「アニキィィィィィー!!」
「それにあんたも!」
「ずっとアニキを…よろしくな!」
「おい」
泣きながら言われるその言葉から感じるのは、迎えられているのだという温かさ。
「…おめぇらも分かんねぇ奴らだぜ、ンなことで泣くなんてよ」
零しつつも元親も嬉しそうだった。互いに信頼し合っているからこそ、こんな和気あいあいと話せるのだろう。仲間との絆。その強さを持つこの軍は本当に凄いと思い始めていた。
(これが…長曾我部軍、)
長曾我部元親という人の魅力――……。
「…聞かしてくれ、おめぇももう俺達の仲間だからな!」
子分達が沙羅を見た。暑苦しい程の笑顔だったが、頼りがいのある子分達。元親と似た気質が伝わってくる。
「ありがとう―――」
微笑んだ。初めての心からの言葉を添えて―――…
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