ザァ……――――






夜の海はとても静かだった。今日は周りの音も何もかもその静けさに吸い込まれ聞こえない。甲板には徳利やら盃やら、散々に散らかり子分達も至るところに倒れ寝ていた。元親も船に寄りかかり片膝をたて寝息をこぼす。賊とは思えない本当に穏やかな表情。



(こんな顔もするのね…――)



戦を駆け抜けてきたとは思えない綺麗な顔。まるで女子のように透き通った白い肌に気付いたら手を伸ばしていた。しかし直ぐその手を引っ込めて。



「…………」



元親に背を向けると甲板から離れる。




―――



「…――寝ちまったのか」



今では慣れた海風に元親は目が覚めた。今夜は明るい。どうやら運良く散りばめられた星空のようだ。
だが結構な時間だろう。



(宵のど真ん中…ってところか)



ぼぅっとした頭で考える。立ち上がろうとすると、ふと体に異常を感じた。



「あぁ?…………」



体が痺れ、思うように動かない。頭もどこか怠い。
全体的に気怠いのだ。



(ンな飲んでねぇ筈だが…)



元親は怠くて仕方ない頭を懸命に回転させる。こんなの初めてだ。自分が酔った時の感覚は覚えている。だから今は、違う。



(何だってんだ……)



そしてはっとする。辺りを見回してそこに見た光景。子分達は皆床に突っ伏しいびきをかいている。
誰一人として目を覚ます素振りも見せない。



―――だがその中に沙羅の姿はなかった。




(あいつが、まさか)




「…くそ野郎が……!!一杯食わされたぜ…」




手摺りにつかまり痺れる体を持ち上げ立ち上がる。
確信した。いつもとなにか様子が違うとは思ったが。
怒りはなかったが嫌な予感だけが沸く。



(――不気味な静けさだぜ…、)



あまりに静かな夜だ。この船には似つかわしくない。いつも聞こえる波の揺らぎすら聞こえないのだから。



「馬鹿な事考えてんじゃねぇぞっ……!!」



沙羅の顔が霞んでは消える。あの女なら、やりかねないと、疼く頭で考え眉を寄せる。船の後方に向かった。


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