願い
「イェェェェェー!!!」
「う、うめえッ!!久しぶりの酒は絶頂だぜ!!」
甲板は大勢の男達で賑わっていた。辺りには徳利(とくり)や盃(さかずき)が転がっている。まさに宴と言うにふさわしい風景だった。
「おい、オメェらッ!!もっと持ってこねえか!!」
元親は騒ぎ合っている子分達を見回すと、声を張り上げる。先程からこの光景が何度繰り返されただろう。
「アニキィ!!どんくらいですか?」
「ンなの…」
一瞬の沈黙。
「持ってこれるだけ全部に決まってんじゃねぇかァ!!」
「うおあぁぁぁぁアニキいぃぃぃ!!」
すぐ様大急ぎで倉庫に駆け出す。
――その風景を見ながら沙羅は一人、富嶽から夜の海を見つめていた。空には曇りひとつない満月が掛かっている。
「沙羅」
「!!」
驚いて振り返る。久々に自分の名を聞いたから。―――この人に名を呼ばれたから。
西海の鬼は船首寄りの手摺りに両肩を預け、寄り掛かりながら立っていた。盃をくいっと向ける。
そこに居たのは、月明かりに影を落としたあの人。海賊とはまた違う空気を纏って、見つめられて。自然と頬が熱くなる。でも必死にそれをなかった事にした。
この人と私は違う。考え方も、生き方も、今までの境遇も、何もかも違う。時折見せる優しさを、私は残酷にも利用して傷付けるだろう。
だから、駄目なの。
―――心の中では分かっている。それでも全てをなかった事には出来なかった。その所為で沸き上がってきた思いは悪あがきのようで。再びそれを押し殺し目を閉じた。
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