誘い
「…――あぁ?何だって?」
「だから言ったでしょう?」
元親は耳を疑った。それはあまりに突然、そして彼女らしからぬ事で。
「これから陸に着くまで私も出来る事なら手伝う。恩をもらってばかりだと気持ち悪いの」
――あの嵐の日から何日か経つ今日。富嶽ですらあれは少し応えた。本当に小さい被害ではあるが、修理は怠れない。部下達は久しぶりに大仕事に明け暮れていた。
『オメェら、ご苦労だったな!!
これが終わったら、シマに戻ってからにしようと思ってたが…――しゃあねェ、宴だ!!!
前できなかった分、今回は飲み尽くすぜ!!』
沙羅の事や毛利の残党の事もあり、すっかり酒を飲む機会を失っていた。その分今回は盛大にやろうと思ったのだ。
その矢先が、今に至る。
「今回の事も…あなた達が一生懸命な時に私は…――」
沙羅は下を向いて言葉を詰まらせた。だが意を決したように顔を上げる。
「…だから、これくらいは…するわ」
まだどこか抵抗感があると言いたげな口調。だが、これは彼女なりの感謝の意なのだろう。なんとも素直ではないが。
元親は黙って沙羅の言葉を聞いていたが、ある事を思い付き口元を歪めた。
「その気があるならあんたも来るか?」
「…何?」
「暗くなって海が穏やかになったら、久々の宴よ!!
…こいよ」
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