ひとつ嵐を越え
「――…アニキィ!!船が、
富嶽が!!」
甲板に戻ると、子分達が集まってきた。ざっと見回し、吹き荒れる雨風の音に負けない声で叫ぶ。
「大丈夫だ!!
富嶽はこんぐれェの嵐で沈みやしねェ!!!」
すると子分達はどんどん不安が晴れていく。まだ不安の色こそ残っているが、頭の言葉ならそれだけで信じることができた。今までもそうして実際頭は実現してきたのだ。子分の絶対的な信頼は揺るがない。
「へいッ!!」
「オメェら!!!持ち場に戻れェ!!
アニキに迷惑かけるなぁぁぁ!!!」
「ウオォォォ!!!」
どたどたと船のあちこちに散っていく。様子を見届けて元親は操縦台に駆け上がった。
「――…行くぜっ!!野郎共!!
鬼の名前を言ってみろぉぉぉぉぉっっ!!!」
「モ・ト・チ・カ!!
うぉぉぉぉぉぉぉっっ!!!!」
その掛け声の中、舵を精一杯回したのだった。
―――
「――…抜けたか?」
穏やかになった風。空は青々と晴れ渡り太陽が元親の顔を照らした。眩しい光に元親は目を細めて。
「やっ…」
「やったぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「すげえぜ!!!アニキィィィィィッッ!!!」
「アニキッ!アニキッ!アニキッ!アニキッ!…―――」
途端、歓声が沸き起こる。元親は濡れた銀髪を振るわせながら顔を上げ、笑みを浮かべた。
その頃…―――
沙羅は寝床から起き上がっていた。その手は右腕をギュッと握り締めていて、壁に刺さっていた刀は彼女の腕の中で光っていた。
続
20100321
20120806改
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