知らない感情

どこまでも大海原が広がっている。
陸など到底見えそうにない。
そういえば陸まで後七日とちょっとと西海の鬼の部下達が騒いでいた。



(七日…―――)



沙羅は船の端で、自分の肩ほどもある船の手摺りに両腕を組んで乗せ顔を埋めて。一人変わりゆく景色を眺めていた。
もう少しでこんな船からやっと下りれる。だが反面、拭えない不安があった。船にいる時間が減るにつれ、その不安が大きくなっているのが分かった。
船を下りて何をしようか考えてなかった訳ではない。叶えたい望みも一つある。だが略可能性は無しに等しかった。
手がかりも何もなく闇雲に探したって、どうにかなるなんて…そんなこの世は甘くない。
頑張れば必ず叶う、…そんな考えはもう捨てた。
それでも諦められはしない。諦めたくない。何度この攻めぎあう心に掻き乱されただろう。

この迷いが、何度犠牲を生んだのだろう。

それでも私には、もう決して失えないのよ――…



『あぁ?ンな沈んだ面してどうした』

「…!!」



突然脳裏を過った声。はっとして思わず辺りを見回す。でも今近くに居る筈はない。沙羅は細めた瞳を震わせ、再び自分の腕の中に顔を埋めた。

脳裏を掠めた――

唯のならず者だと、海賊なんてものの頭だと思っていた。そんなんじゃなかった。乱暴であるが言葉の裏の優しさがだんだん理解出来た。部下達に頼られる、その訳も分かる。人一倍今まで何かと世話を焼いて、頼んでもいないのにわざわざ食料を持ってくる。私が女だからって気を遣ってるのか、果物を――私でも食べられる物を選んでくれる。その口元には何時も、意地悪い笑みが浮かんでいたけど、反発しつつもいつの間にか―――



(!!、…何考えてるの私…っ、)



頭を抱えて手摺りから手を離す。

見上げた空は日が沈んで、夜が迫っていた。子分達がいつものようにあちらこちらで声を掛け合い見張りをする者もいれば、荷物を運ぶ者もいる。



(―――眠い)



様々な事が重なり過ぎた。だから疲れているのかもしれない。沙羅はそう思い船室の方へ入って行った。


[ 10/214 ]

[*prev] [next#]

[戻]




×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -