助けた理由

「不気味なモン貰って、はいそうですかと帰れるかよ」



―――男が懐から刀を取出し投げてくる。舞い戻ってきたものを見て思わず歯に、手に力が入った。



「貰ってくれるって言ったじゃない!」



怒りとともに胸を締め付けるのは悲しみ。もう見なくていいと思っていたから。
“どうして?"
その感情だけが頭を駆け巡り男を訴え見ていた。



「―――捨てるのは簡単だ」



でも



「だがこれはあんたのモンだ。俺には関係ねえよ」



堂々と言い切られて。…真剣な眼差しでそう言われて。



“どうして?"の意味が、何を私が納得できなかったのか



分かった




―――私は



「…そうかもしれないわね」



逃げようとしてただけ。
助けてもらって、この男なら他にも頼んだら貰ってくれると思って―――なすり付けようとしただけ。自分が要らないものを。
当たり前の反応だ。
―――かかっている毛布を握る力が抜けた。



「…はー……此処にいると脳みそ干上がっちまうぜ」



突然耳に入った言葉に、我に返って。顔を上げると頭を掻きながら去っていく背中を呼び止めた。



「どこ行くのよ」

「海風にあたりてぇのさ…あんたもくるか?」



意味が分からない。どうしたらそんな会話の流れになるのか。現実を見せられ突き放されたかと思えば、風にあたりたいと呼んでくる。男の真意がわからない。



「………」

「シカトかよ…」



暫し考えていれば、困った顔でため息つかれ本当に部屋を出ていきそうになり



「ま、待って!」



呼び止めていた。フラフラする体でなんとか歩く。



「こんな薄暗いところに閉じ込められてたらたまったものじゃないわ。それに行かないなんて言ってない…あっ…「――っと、ったく」



慣れない踝まである着物の為もあったのか、転びそうになったところを引っ張られ何とか転ばずに済む。
“え"
と、思わず男の顔を恐る恐る見上げて。



「別に閉じ込めてなんかいねぇよ。無視するあんたが悪い」

「無視じゃないわ、考えてただけよ」

「返事くらいしろってんだ、しかもまだフラフラじゃねぇか」



慣れた手つきで立たされて



「うるさいわね!不注意だっただけ。
―――気安く触らないで」



男の手を振り払い、階段を上り扉を開ける。



「な!てめぇ人が心配して」

「人の服勝手に脱がせておいてよくそんなことが言えるわね!?どんな神経してるの!?最っっっっ低!!!」

「ンなこと言ったって俺が助けてなかったらてめぇ死んでたかもしんねーんだぞ!?なりふり構ってる場合かよ!」

「だからってどうしてあんたに脱がされなくちゃいけないの!?女の人に頼んで―――「だーーーーうるせええええええ!!!」



途端反転する視界。男に後ろ手を引かれ軽々と背中におぶられたのだから。



「なっ、は!?何するの!?離してッ!!」

「耳元でギャーギャーさわぐんじゃねぇ!―――だったら見せてやるよ。あんたがいう俺以外に任せられるやつがいるのかをよ!」




さらには「危なっかしくて見てらんねぇしフラッフラなその足取りでまた怪我して手間が増やされるとこちとら人員不足なんだ、…言いてえ事分かるよな?」と、ぼやかれ腹が立つ。しかし心配しているようにも聞こえてしまう自分もいて怖い。疲れているのだろうか。顔を背け、黙りこくる。男が一瞥してきた気がする。でも極力、顔を隠して。隠すように埋めて。男は歩き出した。


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