海の悪戯
暗かった
(ど、こ……)
やっと…終わったの…?
―――何も見えない。黒い世界。やっと…辿り着いたのだろうか。
(―――っ…、)
しかし突然見えた一筋の光。白く広がって、視界が
(……!―――)
真っ白になる―――。
「―――目ぇ覚めたか」
白い視界は景色を変え、ゆらゆらとほのかに照らす灯りに揺れて。見えたのは、
「3日寝通しだったぜあんた」
「――!!」
はっと、目を見開いた。天井と覗き込む顔に。この声に。反射的に伸ばした手は腰を探ったが、
(…えっ……)
「あんたの探しているのはこれか?」
そう言って見せ付けられた短刀に言葉を失う。ぐっと眉を寄せた。
「危なっかしいからな。…悪いが預からせてもらうぜ」
「…っ」
壁にどんと突き刺された短刀から目を離せずにいたが、視線を背けた。まだ諦めたわけじゃない。きっと、勝機はある。悟られない様に睨み続けて、
(…あ、れ)
違和感にやっと気付く。
「ああそうだった」
わざとらしくゆっくりと話し始められ嫌な予感がした。
「…汗でびしょびしょだったからよぉ、俺が」
悪戯じみた笑みで。
「―――着替えさせといた」
「…ッ!!!」
目の前に引っ張りだされた布切れは自分が着ていたもの。今は違う。綺麗な緑の着物。目の前の男と、薄暗い室内を交互に見て理解した。
―――すぐさま両腕で自分の肩を抱き寄せ防御体制を取る。その目を今までにないくらい、鋭くして。
「海ではなかなかお目にかかれない代物だったぜ?」
「最っ低……っ、」
本当に最低だ。この男は、私の体を、見た。だけじゃないかもしれない。何かされたのかもしれないのだ。羞恥と悔しさにただただ男を噛み付くように見ていた。見るしかなかった。
「おっ、怖え怖え」
男は怯まない。寧ろ絶対楽しんでいた。最低な男。
どんな神経しているのと言ってやりたいが言い返せない。恥ずかしさを、見せつけるようで嫌で。男の思うつぼのようで嫌で。視界に映る男がせめて見えないように毛布を被りそっぽを向いた。
「………」
「………」
何か言ってくると思った。でもいつまで経っても何も、聞こえてこない。今まで挑発してきたのに何なんだろうと、戸惑う。
「……ねぇ」
「…なんだ」
返ってくるのは何の変哲もない反応。戸惑いは膨らむばかり。でも一番理解できないのは。
「―――どうして私を助けたの?」
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