出会い
「――ッ、はっ…はっ…」
あれからどの位経ったのだろう。
元親は瓦礫の下でゆっくりと目を開けた。
「…ってぇな……、畜生」
体の至る所がズキズキと疼いている。悲鳴を上げている体をなんとか起こすと、覆い被さっていた瓦礫が崩れた。
「ちっ…まさか自爆するなんてな……」
毛利兵らしいぜ…
(―――まだ息がある)
必死だったから考える余裕もなかった。只々、生きている可能性のあるこの女に傷を付けたくなくて。
身を呈して抱き抱えた、あの時。
元親の体の下には殆どぼろぼろに破れた袋。そして顔を覗かせる女がいた。まだ目は覚めない。
しかし珍しい事に、その女の髪の色。日ノ本には稀な、茶色で。時折夕日のような紅が綺麗で。
「―――まずは、ここから離れねェとな」
だがそうものんびりしていられない。袋を乱雑に破り捨て、女を抱えると遠く見える自分の船に向かって歩き出した。
―――
(―――ここなら、大丈夫だろ…)
少し歩いて辿り着いた木陰。元親は女の体を砂の上に寝かせ、その横に腰を下ろした。
(歩いたな。ここならもし付兵が来ても…いや、あの爆発で誰も生きてはいないと思われている筈。辺りの兵は全て片付けたしな)
だがこの程度、今までに数えきれない程経験してきた。元親にはその自信がある。
―――ふと眠ったままの女の純白な肌を、女の顔を見つめる。
「こいつが目ェ覚めンまで、俺も一眠りすっか……」
穏やかな表情で眠り続ける女の声は、目蓋の裏の瞳はどんなものなのだろうか。ふとした興味。だが、時が来れば分かるだろう。そう思って重い瞼を閉じた。
―――
「――……う…っ…」
体が痛い
頭もガンガンする
空が……焼けたように赤い
そう…私は―――死んだのね―――…
「起きたか?」
「……!」
「ぉおっと、」
思わず手にした刀を投げていた。見えた男は片眼しかなく刀もそこに向かって放つ。即座に退き刀を構えた。
(…―――!なんて早いの…)
男は刀が届く前に掴んで止めた。見えた片眼は、顔は冷静に私を見ている。がっしりとした体に、剥き出しの腹筋。その風貌から賊の頭だと予想がついた。
「…物騒なもの、持ってんじゃねぇか」
男は声低く話しかけてくる。私を見て、目を細めて。短刀を投げ捨てられて息を飲む。
「あなた…さっきのやつらの仲間ね」
そう、さっき私を襲った賊。賊は許せない、絶対に。だから引き下がるわけにはいかない。
「おい、何言って「さっきは油断したけど、女だと思って甘く見ないで!!」
自分の力を過信した。だから―――もう隙を見せない、話なんか聞かない。
「はあああッ!!」
―――倒す。
走り抜けて、男が動く前に真上をとった。こんな短い刀じゃ最初の一手位にしかならない。勢いで押し切る、そしてこの男の持っている武器で―――と思っていた刹那。男の眉がビクンッ、と上がる。
「!!…」
「人の話を…聞きやがれ!!!」
「ッッ!!!」
振り上げた刀も、浮いた体もまるで金縛りのように固まって動けなくなって。その隙に腕を掴まれ短刀を払われた。
(そ、んな―――)
「…あッ!!…」
地に落ちた短刀を見て直ぐに、離すまいと言う事なのか、腕を引っ張られ声が出てしまった。だが直ぐ、いかに情けない面を見せてしまったと悔しさに襲われて。捕われた腕を解かせようと藻掻いた。
「―…ッ!離しなさい!!」
「ちっ…」
呆気なく腕は解放されて、一瞬迷う。それを見せないよう直ぐ睨みつけたまま、さっと離れた。
「いいか?俺は―――」
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