歯車は動き出す

「いやああぁっ!!!」

「待て!その女を捕まえろ!!」



村は燃え上がり村人達は至るところに倒れ動かなくなっていた。炎はその間も勢いよく燃え上がる。



「だがこんなにもうまくいくとは、我らも捨てたものではなかったという事か………」



二三十人程の、身を防備で固めた兵士達の中
一際がっしりした体格の男が口角を上げて呟いた。

目的は果たした。
後はこの女をあの方に渡せば本当の…誠の自由が手に入る。

やっと自由を手に出来る―――。



男は地面に横たわった袋を一瞥した。
人の入った袋を。



「…恐れながら此処から早く離れた方が宜しいかと…」



仲間の兵士が言い、頷く。



「此処は退く!皆撤退致せ!!」



兵達は互いに目配せし頷くと、男の横を通り過ぎていく。
その中、男も村に背を向け歩き出す。村から離れようとしたその時だった。



「――…待ちな!!」

「!!」



聞き覚えのある怒声に、まさかと後ろを振り返る。



「長曾我部元親…!?」



そこには碇槍を肩に担ぎ、男を見据える元親があった。



「鬼ヶ島を荒らすなんざ、いい度胸してんじゃねぇか」



元親は周りに横たわる血塗れの死体の山に眉をしかめて足を踏み出した。



(酷ぇ事しやがる…)



碇槍を握る手に力が籠もる。
理由はどうあれ、無防備に等しい者を襲うことは最早兵の行いではない。ただの殺戮だ。



「――…かかったな」

「…あぁ?」



男の声と同時に四方八方から弓矢が飛んできて。


「…ちっ」



ッ…



上着と顔を少し擦るが、それを避けて碇槍を思い切り振り回す。



「オ゙ゥラアッ!!」




すると崩壊寸前の家々と共に炎が吹き飛び、そして隠れて奇襲を仕掛けた弓兵が顕になった。
その顔を恐怖に染め、小さな悲鳴を上げて地面に座り込む。

自分の背丈以上の碇槍を操るその光景は普通じゃないだろう。
だが元親は軽々とそれを振り上げていたのだから。



「お、おのれ…!!」



男の心を不安が過る。
手段をなくし刀を抜いた。



「アンタ…毛利の手下か?」



このやり方、一人しか思いつかねぇ



毛利元就。
冷酷な策と、部下の命も顧みないやり方で中国を統べた男。

全く理解出来ない、仲間を駒としか見ないそのやり方は。



「…我らはもう元就様の駒ではない。
後もう少しで…もう少しなのだ」



その笑みは何処から出てくるのか。
薄ら勝ち誇ったような不敵な笑みを浮かべて言われて。



「あの方が我らに自由をくれると言ったのだ」

「あの方、だと?」



元親は首を傾げた。
刹那男は唸り声を上げながら突進してくる。




「―――――ちっ、」



思考回路が閉ざされ、一瞬。碇槍と刀が鈍い音を立てて交差した。


―――風が止む。



「……」



「……フ」



「おい!まだ死ぬな!!『あの方』って誰だ!?
アンタ等の後ろには誰がいる!?」

「貴殿の…知る事では…ない……」



返ってきた言葉に眉を寄せるが、はっと顔を上げた。
終わった筈、なのに何故か耳に入るのはバチバチと何かが弾ける音。倒れた男を後にして後ろを振り返ると目を見開いた。
男の手下達が苦悶の表情で爆弾を持っていて。村を囲っている。



(おい…今ここで爆発したら……)



自分はどうにかなるだろうが生きてる村人は確実に
死ぬ。



―――生きてる人間―――



「や、やめろおおお!!




見つけてしまったそれは、手下共の足元に横たわる袋から覗いた若い女の顔。
気絶しているのか、声は届かない。



(くそ…ッ!!くそっ!!!)



―――走っていた。
力の限り手を伸ばした刹那。



ドォォォォォンッッ!!!



爆風と炎が渦巻いた。


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