鬼は陸へと

「…久しぶりだな」




口角を上げて男は笑う。船の上ならではの、心地よい風が吹き付け銀の髪が靡いた。



「―――アニキー!!」



船員の声に海から目を離すと振り返って。しっかりと仲間の目を見て様子を理解する。



「到着まで後2日ってとこです」

「…おう」



にっと笑い持ち場に戻っていくのを見届け、ニヤリと笑った。



「野郎共!!半月ぶりのシマだ!
帰ったら宴会と洒落こもうぜ!!」


「うおおおおっ!!」



短い上着をはためかせ、その下は厚く広い胸板が顕になった奇抜な衣装。だが右脇腹の大きな傷が辿ってきた道の、決して容易ではなかった事を物語っていた。広々とした肩には、背丈以上の碇槍を抱え
―――長曾我部元親は不敵に笑う。

部下の身を案じ自ら戦に出向かい、部下に対しても親しみ深い『アニキ』と呼ばせ一人一人の顔と名前、性格を把握し気に掛ける海賊の頭。一方で国中の民から慕われる、懐深い一国の長。
そして、その豪腕と大きな碇槍を軽々と操る姿からついた別の名をこう呼ぶ
―――西海の鬼、と。



「な…何だぁ、ありゃあ」



ふと望遠鏡で陸を眺めていた子分が、不審そうに呟く。
隣にいた子分が「どうした?」と覗くと同じく目を見張って。



「ア…アニキィ!!
あの村から火があがってぃやす!!」



元親は眉根を寄せる。



「どいつだぁ…?鬼のシマで焼き討ちしてるクソ野郎は」




(ようやく四国が治まったと思ったがまだまだ…か)



チッ、と舌打ちをする。



「―――…野郎共!!
進路変更だ!先に野郎をブッ潰す!!」

「うおおおおお!!アニキイイイイ!!」



元親の声に残る者なく答える子分達。
富嶽の広い甲板に歓声が鳴り響いた。




―――



「――…酷ぇ臭いだな」



船から降りた元親は眉をしかめる。木が、肉が焼けた臭い。今までも嗅いだことがある。これは、人が集まって生活する場所でする臭い。なかでも、ここまでするのは、決まってる
―――焼き討ちだ。



「すぐに戻ってくる。留守は頼んだぜ」

「アニキィッ、気ィ付けて!」

「任せてくだせェ!!富嶽は俺達がしっかり守ります!」



浜から一人、元親は叫んだ。
元親が一人赴けば早く事は済むだろう。無駄に犠牲は出さず、早急に終わらせる。小さな種なら尚更だと元親が考えての選択だった。意気がいい部下達もそんな元親の性格が分かっていた。

小さな村を襲うなど、金品目当ての賊だろう。


(ちょっくら行って鬼の土地を荒らしたらどうなるか

思い知らせねぇとな―――)



部下達に、ふっと笑いかけ駆け出した。

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