海風吹止

―――ダンッ!!

広い床にかかる大きな衝撃。
ばっと顔を上げ声を張り上げる。





「野郎共!!分かってるな!?」

「勿論ですぜアニキ!!」

「知りませんよ!?俺達!!」





半笑い半泣き状態で持ち場につき仕事をする子分達。
後で城のお偉い者達からきつい説教を食らうのは目に見えていた。
が、頭の命となれば、晴れ舞台となれば一肌脱がないわけにはいかない。
改良した富嶽はあっという間に陸から海へと繰り出していた。




「それでこそこの俺の部下だ。
頼りにしてるぜ、野郎共!」

「―――…元親!」

「んぁ?」





耳に入って目を向けると、眉を吊り上げた沙羅に見られていて。




「元親!!
何度呼んだら気づくのよ!?
さっきからあれだけ呼んでも反応ないしもう!!」


「あー…悪ぃ、全然気付かなかった」





そう言い彼女を下ろす。





「…って、はぁ!?
気付かない振りしてたでしょ!?
一体どういう事なの!?
貴方何のつもり!?」






もしこれでこの祝言がなかった事になったら…






「心配すんなって」

「心配しない方が無理に決まってるでしょう!?
冗談にも程が―――」






言えなかった。
頭に伸びた腕にあっという間に距離を縮められる。
顔が近くて、口も近くて。
頭が真っ白になった一瞬の隙に口付けられた。
触れるだけの接吻。





「あんな堅っ苦しいとこ、あれ以上いられっかよ」





本当に

本当に何気なく奪われてしまう口付け





いつも突然で不意打ちで





悔しいが勝てる気がしなかった




「にしても、」





目を細めニヤニヤ笑う元親。




「おめぇはこうしねぇと静かになんねぇのかって」

「―――ッ!!
ば、馬鹿にしないで!!」

「別に馬鹿にしてねぇよ」



いつもは無鉄砲な元親に説教する沙羅も、これには対抗できず。
どうしても彼の思い通りにさせてしまう。
恥ずかしくて何も出来ないのを知って意地悪く笑う彼だが、許してしまうのは…そういう事なのだ。
心拍数は上がるのはそういう事なのだ。




「毛利が来たらちっとは面白くなったかもしれねぇが、」

「…仕方ないじゃない、二人も今日祝言なんだから」

「ちっ、あの野郎絶対合わせてきたに違ぇねぇ。
どんな面して由叉と盃交わすのか見たかったぜ。
―――まぁンな事言ってもしょうがねぇ」









つーわけで
―――そう言いぐるりと見渡す。






「やっぱ此処が一番なわけよ」





青い海原。
海の、波の音。
白銀の髪が靡く。





「だからってこんな突然…。
城の人達に黙って…今頃怒ってるわ」

「分かってくれんだろ!
こうなる事ぐれぇ、」

「………、」

「それよりよ、沙羅」





がしがしと頭を掻いて。







「―――ホント、綺麗だな」

「っ…!!」




いや、元々綺麗だけどよ
―――と、ボソボソ言う。
何故か顔を背けられたまま、まだ頭を掻いていて。
益々沙羅は赤くなる。
互いに目を合わせられない。




「と、突然何言い出…」




元親の傍を通り過ぎようとして失敗した。
慣れない白無垢。
早歩きに躓いて。
何故気づくんだろう。
「おい!?」と一瞬で元親は体勢を変える、支えてくれる。

見上げて、見つめられて、沈黙。




「―――いいねぇ!
恋だねぇ!!」

「ッ!!!」





驚いて。
慌てて手を振り払うと結局転んでしまった。






「おま…!沙羅、」

「どうして貴方がいるのよ…!」





そこには有り得ない客がいた。




「―――慶次!!」






騒ぎ立てる子分達の束の前に頬杖付いて座る男。
こっちを見てニコニコと笑顔を費やさない。






(いつの間に乗り込んでたの…)






「沙羅」





呼ばれて視線は苦笑した元親に変わり。
見上げる。




「何も気にする事ぁねぇだろ?」





俺達は晴れて夫婦になったんだ

―――目を閉じる元親。
静かになり、風が止んだ。




「先だっても言ったけどな、」






俺がお前を幸せにすっから






「―――ついてこい」





手を差し伸べられて。





目を丸くした。





―――でも、
ふっと漏れたのは自然な笑み。






伸ばして、手を重ねて。






「えぇ―――」





見つめて、引かれる腕。
抱き寄せる、愛しい人。
そっと首に腕を回す。

―――輝く水平線。
白く海を照らして。
口付けを交わした。



“海”は風と出逢った
 “風”は己の力を忌み
 “吹”き荒れど此処に
 “止”み永久を契らん―



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