天衣無縫

花嫁の登場と共に始まった祝言の儀。
皆が皆、長曾我部家の安泰と四国の益々の安寧を願って、二人の男女を見守っていた。
当主長曾我部元親と、その妻沙羅を。
夫婦固めの盃も終わり式は滞りなく進む。
終盤に差し掛かっていた。




「…」




式を束ねる家臣が言葉を連ねていくが馬耳東風。
この場に慣れない元親は飽いていた。




「―――相分かった、」




突然掌で言葉を遮って。
場に居た者達が目を丸くして、遮られた家臣も力が抜けたような顔で元親を見た。
すっと、顔を上げて口角を上げる。





「ここいらでいい」

「はい?」

「―――きゃあ!」




会場が響めく。
沙羅を抱えて元親が立ち上がったのだ。





「野郎共ォ!」

「はいアニキィ!!」





何が起きているのか分からない周りの者達はただただ響めき、呼ばれた子分達はドダダダと外に出ていく。




「こ、これは…」




ばっと当人に振り返って。




「これは何事にございますか元親様!!」

「んぁ?」





素っ頓狂な返しに、半ば信じられないと言いたげな家臣を見遣る。





「何って…長くて腰にきちまってな。
盃も終わったしお開きにしようぜ」

「な、何言ってるの元親!?下ろして!!」

「そうですぞ!!いくら夫婦固めの盃が終わったとてまだ儀は…

って、元親様!?」





皆が目をひん剥いた。
外廻縁に出た元親は沙羅を抱えたまま高欄に足を掛けて。
そこにはまるで迎えに来たような、新しい富嶽が見えていた。
一人また一人と子分達が飛び移る。
喧騒は止まらない。




「―――皆、」





―――ニッ、






「これが長曾我部元親(おれ)だ、
―――許せ、よっと!」

「なりませ…、おわっ!」





走ってきた家臣の手が届く前に、元親は最上階から飛び出したのだ。





「なぁ!?」

「きゃあああぁ!!」


「ちょっくら出てくる、留守は頼んだぜ!」




宙に浮かんだまま叫ぶ。
高欄に押しかけていた者達を一瞥し、降下しながら富嶽へ向き直った。

………………………………
外廻縁→天守最上階の縁側
高欄→外廻縁の手摺り

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