祝いの席

この日、岡豊城では大きな催しが執り行われようとしていた。
その御陰で家臣達は稀に観る位の多忙を強いられていたのである。
バタバタと廊下を人が行き交い、当主である元親ですら満足に進めなかった。




「………」




その所為もあり、元親はいち早く主たる場所に案内されたのである。




「おお!アニキ袴似合ってやすね!!」

「あれ、アニキお一人っすか?」

「早いっすねー!」




様々な声が飛んでくる。
既にいる部下達も同じ理由で居た。





(くそ…)





『勝手に見に行ってはなりませぬ故!』





お楽しみでございます―――。

どうやっても通してくれず止む無く此処に来たのも嘘ではない。





(ンな言われると、気になるじゃねぇか)





黙っているのが苦手、それが己の性。
だが座敷に案内されてきた者達の相手をしたり、あれこれ考えていたら既に大勢の人でごった返していた。



(何とか一人二人通れる位の足の踏み場だな)





にしても





(遅ぇ…)





「なかなか始まりやせんね」

「…だな」




部下達がこぼすのも無理はない。
平生なら見張りをし、舵を取り、カラクリを相手にする集団なのだ。
今はそのどれも出来ない。
任せるしかないのだ。
だが、




「っと、」




もう我慢の限界だった。
元親は重い腰を上げて立ち上がる。




「アニキ、どちらへ?」

「あぁ、ちょっくら、」







ザワザワ…






「様子見に―――」









騒めきに何となく顔を上げただけだった。
座敷の向こうに視線をやると、自然と目が丸くなって。

白無垢で統一された着物に綿帽子。
色付いた唇。
目元にも紅がのっていて。

衣擦れの音を立てながらそろり、近付いて来る。
在席していた誰もが道を開けて。
彼女は「ありがとうございます」と小声で一人一人に会釈しながら、その距離を縮めてくる。
元親が目を細め、口角を上げた。







「綺麗だぜ―――…」






沙羅

―――呼んで。
足を止める。
沙羅は元親に向き直りふわり、微笑んだ。

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