色褪る前に

知りたくなかった。
認めたくなかった。

でも、分かっていた。

沙羅が傷に口付けたのも
そして治してくれたのも
―――寿命を俺の為に使い果たしたのも、全て。
分かっていた。





「これがお前の望んでた未来なのか」






なぁ








答えろよ








「答えろよ沙羅!!」







沙羅―――





―――





「―――…!」






振り返る。
だが、誰もいない。

周りは橙色に染まっている。
聞こえる川のせせらぎ。
目の前に流れる水の音。
いつ私はこの川を渡り始めたんだろう。
分からない。
でも渡りきらなきゃならないのは知ってた。
向こうまであと半分。




(冷たい…)




流れも強くて足を滑らせそうだった。
漸く岸部に上がろうとした時、





「来てしまったのですね」






見えたのは







「母、様」







岸に立ち沙羅を見つめる神流だった。
沙羅は目を細め笑って。
手を伸ばす。






「ずっと会いたかった…っ」






神流は眉を寄せ顔を背けて。






「私は…会いたくありませんでした」

「え…」






腕が下がる。






「由叉を置いて、何故此処に来てしまったの」

「大丈夫よ。
由叉にはもう毛利がついてるから」






あの子は沢山傷付いた。
でもそれを埋める位これから毛利は大切にしてくれる。
今までのように傷付ける方法じゃなく、愛しみ守ってくれるわ。
きっと―――。






「…元親様は」

「…」

「悲しまれますよ」

「…」






目を伏せた。






「分かってくれるわ…」






他に方法がなかったの






「彼なら…」







「…」








神流が目を伏せる。







「―――沙羅」






伸びた手。
掴もうと伸ばした刹那
ゴオッ!と川の勢いが増して流される。





「母様…!」

「沙羅」






あなたはまだ







「生きなさい」






聞こえたような気がした。






(―――っ駄目…
溺れ、る)







―――伸ばした手。
諦めかけて







手を






下ろそうとした時





―――グ!






掴まれて






少しだけ目を開ける







(だ、れ…)








貴方は







―――ツゥ…






私を見つめる貴方は







―――サァ…







大海原から私を見つけてくれる貴方は―――








「―――沙羅」






ぼんやりと目を開けた。
淡い橙。
空の色。
波の音。
砂の感触。
その隻眼が小さく震えてる気がした。





「元…」




―――スッ…





「親―――」







伸ばした手。
掴まれ掻き抱かれる。
紛れもない、感触。
濡れた体。
髪から滴る雫。
頬に落ちて。
滑り落ちて。




私はまたこうやって貴方に




―――ギュッ








「ただいま―――…」




命を貰うの



20130302

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