2つ子
『…――― 様』
『… か、斯様な時間に出歩いては体に触るぞ』
『…』
『如何した』
『…―――申し訳、』
『…?』
申し訳ございません―――。
泣いたその人は、私が以前見た記憶と同じ―――母だった。
何も言わずそっと抱き寄せるのは父。
私の中で一つ、また一つと記憶が蘇っていく。
『何故そなたが謝る』
『私は、』
二つ子を生んでしまいました
『この力に縛られる子を二人も…』
ギュッ…
『言うな…』
『 …様…っ、』
父が母を強く抱き締めた。
『私とお前のもとに二人も授かった。幸せな事ではないか』
『されど、』
『…』
『もとは一つの命…それが二つに分かれたのです』
ただでさえ人より寿命の短い私達
だけどあの子達はさらに短い
『刻印が濃く表れた沙羅は由叉より寿命は長く、力も濃いでしょう。
されどその分、命も大きく減ります』
そして幸も不幸も招く、異質な力
『他の者に命を狙われましょう』
『…』
『反面力を欠いた由叉は、命も短く…今こそ斯様に元気に泣いておりますが、』
沙羅に比べればひと回りもふた回りも小さく生まれた由叉。
二人を合わせ一つであるかのように分かれた命と力。
聞こえてくる泣き声は、まるで「私もいるんだよ」と存在を知らせているようにも思えた。
『少なき力は僅かに使うだけで大きく命を削る』
生まれ持った力が多ければ寿命も長い。
力と寿命は比例する。
そして二人はどちらも、少ない命。
『苦しいのです。娘達が力に翻弄され生きていかねばならぬと思うと、』
自由に生きてほしいから
『…』
『二つ子はどちらか一人が命尽きた時、力も寿命も引き継がれます』
過去もそうだった。
双子は死んだ者の力、生きた分の寿命がもう片方に渡る。残された者は、何もなかったかのように力は強力になり、寿命は延びる。死者の命は生者の中に、輪廻する。
『いつかきっと…知るでしょう』
この子達は
『私達が血から知ったように、』
近付く刻印から過去を知ったように
『でもこれを知った時沙羅と由叉は…』
『大丈夫だ』
―――フッ…
『私とお前の子だ。きっと二人助け合い生きてゆく、そして』
―――ギュッ…
『私とお前のように…いつか好き人が出来ると信じているよ』
娘が生涯愛し、愛される者が
『そうでございますね…』
―――フッ…
『私にとっての貴方様のような…大切な方が傍に居て下さるなら
心配ありませんね』
すっ、と満月に翳した手。
指の隙間から月明かりが照らしたのは手の甲の印。
母が目を細めた。
『その日を見られぬのは心苦しゅうございますが、』
私達はこの先ずっと
貴女達を見守っていますよ
沙羅、由叉――――――…。
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