互いの幸せだけ、

「はっ…はっ…」






ァ…

―――風が頬を撫でる。
広がる光景。辺りを埋め尽くすのは地に転がった人の海。
沙羅は言葉を失った。

辿り着いた厳島。
水軍が厳島を取り囲んでいて、富嶽は敵船にぶつかる形で停泊していた。
駆け付けた船上では号叫と銃声、様々な音が飛び交っていて。私の姿を見つけた仲間達は一瞬驚き動揺していたが、予想していたかのように、直ぐ戦況を教えてくれた。
元親は社に乗り込んだ事、人手が足りない事、
そして船を守る組と本陣組、互いの情報が伝わってこない事―――戦場は錯綜していた。

残りたいのも山々だったが、此処は大丈夫と先を促してくれたから。

―――だが本陣には船上以上の光景が広がっていた。




―――ジリ…




「……」




歩き出せば見えてくる。
散らばり見える長曾我部軍と毛利軍の旗、兵。全てが終わった跡のように閑散としていて。激しさを物語っていた。




「遅かった…の、」





唇を噛み締める。
こんなにも戦は進んでいたのだと。

途端走り出していた。
此処で止まっていては駄目。
そう思ったから。





「―――佐平太!!」

「――姐さん!?」





暫く進んで漸く見えた仲間の姿。
毛利兵を斬り近付いてくる。




「やっぱ来たんだな」

「どういう…事よ…」

「……」




決まり悪そうに黙る彼。
でも彼らなりに考えたんだろう、責められなかった。
声に気付いた仲間達が「姐さん?」「姐御!?」と、どやめく。
厳しい顔になった沙羅に冷や汗をかいていた。





「…私に黙って行くなんて、」

「「「へぇ…」」」

「勝手に来て」





ジッ…





「戦なんて…」






ゥ…






「どうして……っ」






豊臣の時も松永の時も頼んでない。
なのに、どうしてそこまでして戦おうとするの。







『貴方様の身を危険に晒したくなかったから…!』






「どうしてそう、無鉄砲なのよ…っ」

「…」

「薬なんていいの…なくたって生きられる。私は…っ、」






軍の意地が理由の一つなのも分かってる。
でも、





「―――どうしても戦わなきゃならないの…?」






『元就は本当は優しいんだ…』






「決着をつけなきゃならないの…?」






甘いのも知ってる。
でも、






「こんなの…何も始まらない…っ、」






それは元親を愛する自分と、元就を愛する妹。
姉妹の宿命に対してか。
元親と元就の宿命に対してか。
そんな事分からない。
分かるのは、




私と由叉が互いに望む幸せは、
元親と元就の決着が着いた時終わる。







このままだと少なくとも一人、欠けてしまうから。

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