もう一人の俊才

「貴方が、」





毛利軍の中でもずば抜けた頭脳を持ち、元就に次ぐ策士と噂の男。
宍戸隆家。
由叉が『毛利の懐刀』と呼ばれる前から有名な話だ。

軍の司令塔である毛利元就、それを統率する宍戸隆家。
毛利の立てた策は宍戸によって完璧になされる。
そこには穴一つない、それが毛利軍の強さでもあった。




「…何故今四国を攻めるの」





四国を攻める機会等、今でなくとも何度もあった




「私が意識不明だったあの頃、貴方達程の力があれば何時でも攻めてこれたでしょう」

「……」

「あの書状…元親が応じないと知ってわざと寄越したの?薬なんて書いて…」




不審だらけの書状を突然送って、元親が受け入れる訳ないと
分かっているでしょう




「薬の有る無しに関わらず、元親は厳島に行く。
貴方達毛利軍と決着を着ける為に…」




きっと…そう



決して噛み合わないなら
雌雄を決するしかない




「今…戦を仕掛けてくるのには急な理由があったからではないの?
わざわざ貴方達の方から仕掛けてくる程の…」




好戦的な元親に対し、滅多に動かない元就。
慎重な彼の方から接触してくる等、余程の考えがあっての事としか思えない。

―――沙羅は横目に後ろを見遣った。
首に触れそうな刀の切っ先に息を呑みながらも。隆家が目を細める。





「流石、鬼の風刃と呼ばれるだけありますね」

「…目的は?」

「そなたの考えは略合っています、でも」





甘い





「……!!!」




―――キンッ!

甲高い金属音が鳴って。
間一髪、刀を跳ね除け立ち上がった。





「それが―――治癒ですか」

「………」




既に血が止まった肩に気が付いたらしい。
早く鋭い、洞察眼と刀の腕。成る程、毛利に重用されるのも頷ける。




(あと少し遅かったら―――…)




沙羅は首に僅かに出来た切り傷に触れた。





(これが、毛利軍…)





「我らとて長曾我部に易々と抜かれる気はありませぬ」





そちらが一万ならば我らは二万





「決戦は厳島…我らが策の巣窟はいくら西海の鬼とて」






突破出来ない





「…………」

「急な理由等ない。…最高の策と兵、情勢が今となった
只それだけです」





六条沙羅殿





「思慮深いそなたならお分かりの筈。
嘗て元就様の下にいたそなたなら」





一族の血を継ぐのなら―――。

眉を寄せる沙羅。
刀を下ろし首を横に振った。

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